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2012年7月20日(金)

《ぴあ×チャンネルNECO》強力コラボ 【やっぱりNECOが好き!】 第10弾~第19弾

2012.7.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第19弾!!
ギャップのカッコ良さについて語る!

●2つの顔を持つ主人公のギャップがカッコイイ!

任侠映画という特殊なジャンルを持つ日本は、昔から兼業ヤクザの話がお好き。薬師丸ひろ子の「カイカ~ン!」の名台詞が忘れられない『セーラー服と機関銃』(女子高生×ヤクザ)に、志穂美悦子主演『二代目はクリスチャン』(シスター×ヤクザ)、11月には草彅剛主演で『任侠ヘルパー』(介護士×ヤクザ)も公開だ。その魅力は、堅気姿とのギャップ。表はランジェリー・メーカーに勤める会社員、裏の顔は関東最大の暴力団「新鮮組」三代目総長・近藤静也が主人公の『静かなるドン』シリーズもまた然りだ。

本シリーズの人気のほどは、数字に表れている。新田たつおの原作漫画は単行本100巻を超え、累計売上4,300万部を突破。映像化されること4回で、1991年~2001年までのオリジナルビデオと2000年の映画で香川照之が、1994年にはTVドラマで中山秀征が静也を演じた。今や香川は日本映画界屈指の個性派俳優に成長し、中山も司会業で多数の冠番組を持つ。彼らの出世作と言っても過言ではない。

そして2009年、雑誌「週刊漫画サンデー」での連載1,000回突破を記念して、『静かなるドン 新章』シリーズがスタートした。静也役は、TBSドラマ『もう一度君に、プロポーズ』の好演も記憶に新しい袴田吉彦だ。会社員姿と総長になったときのギャップが、静也役に抜擢された理由だという。袴田版静也はこれまで同様、ランジェリー会社ではダメ社員で通っているのだが、そのダメさ加減では歴代最強。毎回、役員に新作プレゼンをするシーンでは、即却下されるのがお約束。残業が長引いて組の大事な行事に遅刻するのもご愛嬌。だからこそ、総長としていざ反目する組と真っ向勝負する姿がカッコイイのだ!

本シリーズの見どころは、異色の総長・静也が「世の中からヤクザをなくす」ことを野望に、関西最大の勢力を誇る鬼州組の盃を受けるという奇策。彼の野望は叶うのか? 行く末を見守りたい。

中山治美(映画ジャーナリスト)

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2012.6.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第18弾!!
アニメ史上最大の衝撃作について語る!

●見る者の人間観を問う、アニメ史上最大の衝撃作

『伝説巨神イデオン』は、人間のエゴとその果てを容赦なく描いた点において、劇場公開から30年を経ても色褪せないアニメ史上最大の衝撃作だ。

監督は、当時『機動戦士ガンダム』を完結させたばかりの富野由悠季(当時・喜幸)。『ガンダム』で切り開いたリアリティーあふれる人間描写を一歩押し進め、『イデオン』では我の強い人間のぶつかり合いを前面に押し出した物語を構築。湖川友謙が描いた硬質なキャラクターもその作劇とマッチして、独特の雰囲気を作品に与えることになった。

物語は、ソロ星に進出した人類が、異星人バッフ・クランと接触。交戦状態に陥るところから始まる。人類は発掘メカ・イデオンで対抗しながら、宇宙船ソロシップで逃亡の旅を始める。だが、イデオンが宿すとおぼしき無限力“イデ”こそ、バッフ・クランの求めるものだった…。

孤立無援の極限状態。終わることのない戦い。キャラクターたちは、そんな状況下でお互いのエゴをぶつけ合う。神のごとき力“イデ”によって翻弄される中、キャラクターの本性が露わになるその姿は、見る者の感情移入を拒否するほどだ。しかし、ファンはそこにこそリアルな人間像を感じ、作品を支持した。ここまでむき出しの人間というものを冷徹に見つめたアニメは、他に類をない。その点で、『新世紀エヴァンゲリヲン』のルーツだともいえる。

しかし、全43話の予定が、残り4話を残しての放送打ち切り。真のラストシーンを望むファンのために制作されたのが、映画『伝説巨神イデオン 接触篇』と『伝説巨神イデオン 発動篇』だ。『伝説巨神イデオン 発動篇』ではソロシップ側だけでなく、バッフ・クラン側でもエゴのぶつかり合い——父と娘の相克、姉妹の嫉妬と羨望—がクローズアップされている。

なぜ、人間のエゴを描くのか。それは、本作が「人間はエゴから解放され得るのか、エゴは人間の業なのか?」という問いかけの物語だからだ。その結論へと突き進んでいく『伝説巨神イデオン 発動篇』は、結果として宗教的な様相すら帯びてくる。宗教画のような衝撃のラストは、見る者それぞれの人間観を問うているのだ。

藤津亮太(アニメ評論家)

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2012.5.21

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第17弾!!
あの鮮烈な生きざまを放つ伝説の名作について語る!

●鮮烈な生きざまを閃光のように放ち、この世から去った金子正次の伝説的な名作

必ず“伝説”という言葉が付いて回る日本映画の超名作。それが、'83年に大ヒットした『竜二』だ。主演は金子正次。俳優としての彼は、これ1本のみで映画史のなかに今も輝き続けている。というのも、公開直後の11月6日に癌で亡くなったから。享年33歳。

それまでの金子は、ずっと売れない役者だった。同い年の友人であった松田優作はすでに大スター、こちらは無名。彼は自分の主演映画として、妻子のために足を洗おうとする新宿界隈のヤクザ、花城竜二の脚本を書き上げる(「鈴木明夫」名義)。しかし、企画を通してくれる映画会社はどこにもない。そこで自ら金をかき集め、希望のキャスト――妻役の永島暎子、元フォーリーブスの北公次、コメディアンの佐藤金造(現・桜金造)ら――を口説き落とし、まったくの自主製作で『竜二』を完成させた。当初、監督を務めていた金子の友人は途中降板し、プロデューサーの大石忠敏が「川島透」の名で代行(川島は以降、金子が生前に遺した脚本をもとに東宝で『チ・ン・ピ・ラ』などを撮る)。また、助監督の一人には、後に『どついたるねん』で監督デビューする阪本順治もいた(クレジットは「坂本順治」)。

こうした“無名俳優が自ら主演作の脚本を書いてブレイクする”先例としては、『ロッキー』のシルヴェスター・スタローンがいる(金子も意識していたようだ)。だが、アメリカン・ドリームの体現者となったスタローンに対し、『竜二』の金子は鮮烈な生きざまを閃光のように放ち、この世から去っていった。だからこそ、余計に“永遠の問題提起”として見る者の心に鋭い余韻を残すのだろう。

とりわけ本作の凄さは、ヤクザ映画というジャンルの域を超え、普通の小市民生活に安住できない男の深い業をえぐったことだ。それは俳優として、映画という“ヤクザな世界”にこだわった金子の自己表出を託したからこそリアルに刻まれた。このテーマ性ゆえ、本作はあらゆるクリエイターに多大な影響を与えている。『竜二』フォロワーの代表格として有名なのは長渕剛だが、山下達郎も本作の大ファン。芸人の千原ジュニアも、フジテレビ系のバラエティ番組『人志松本の○○な話』('09年5月19日放送)で本作について熱く語り、松本人志が大いに共鳴する一幕も(この模様はYouTube動画などでもずいぶん話題になった)。大ヒットを記録した『モテキ』の監督・大根仁も、Twitterなどで“竜二愛”を表明している。

また、卑近な例で恐縮ながら、フリーライターという不安定な仕事に就いている筆者も、堅気の日常を遠く感じた時、本作の主題歌となった萩原健一の名曲「ララバイ」が頭の中に流れ出す。あるいは、アメリカ映画『レスラー』や韓国映画『息もできない』、自主映画『SR サイタマノラッパー』などにも、勝手に本作の面影を見る。人生においても映画においても、『竜二』は偉大なるロールモデル、ひとつの基準値なのだ。

なお、『竜二』をめぐる“伝説”については、ぜひ本作の舞台裏を(半ノンフィクション的に)再現した'02年の作品『竜二 Forever』(監督・細野辰興)をご覧いただきたい。サブテキストとして必見の一本。金子役は高橋克典が演じており、発声を似せるなど、なかなかの好演。他にも実在の関係者たちをモデルとした人物が名前を変えて登場しており、松田優作に当たる羽黒大介は高杉亘が演じている。

この映画でもわかるように、優作は『竜二』の誕生に間接的な影響を与え、間もなく金子の最期を看取った。そして6年後の同じ11月6日、優作もまた癌で死去する。享年40歳。やはりこの二人は、運命的な関係だったのだろうか。

森直人(映画批評、ライター)

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2012.4.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第16弾!!
“勝新”の監督デビュー作について語る!

●映画作りの常識を覆す勝新の遊び心と矜持

'71年に劇場公開された『顔役』は、我らが“勝新”こと稀代の怪優・勝新太郎の監督デビュー作。破天荒な刑事が捨て身で巨悪に立ち向かっていく姿を描いたハードボイルドな一作だ。

主人公の刑事を演じるのも、もちろん勝新。「飲む・打つ・買う」は当たり前、自分が取り締まっているヤクザ以上にヤクザな刑事、というキャラクターは痛快至極だが、何より驚かされるのは、この主人公のキャラクター同様、いや、それ以上に、作品そのものが“型破り”だということ。勝新は、満を持してメガホンをとったこの作品で、いきなり映画の常識を壊しまくっているのである。

まず特筆すべきは、手持ちカメラを多用した映像演出。なぜか大写しされる水虫の足の指やオッサンのハゲ頭、ガラスの机に逆さまに反射した刑事の顔。はたまた、1シーンの中で主人公の“見た目”のショットと客観的視点によるショットを混在させるという離れ業もやってのける。見る者を不安に陥れるようなシュールな映像世界はインパクト絶大だ。またその一方でリアリティーにもこだわっており、ストリップ小屋の踊り子の役はホンモノを起用しているのだとか。それまでの日本映画界の常識を覆す、こうした数々の大胆な仕掛けによって、そしてさらにはGSの立役者でもある名コンポーザー・村井邦彦のグル―ヴィーな音楽とも相まって、本作には最初から最後まで、得体の知れないパワーが画面いっぱいにみなぎっているのだ。

脚本は黒澤明作品で知られる菊島隆三と勝新が共同で手掛け、共演には山崎努、太地喜和子、大滝秀治、そして実兄の若山富三郎ら、豪華な布陣が集結(ちなみに勝新&山崎努の顔合わせは、のちに黒澤明の『影武者』で共演するはずだった、いわくつきのコンビ!)。スト―リーの骨格や俳優陣の演技力がしっかりしているからこそ、勝新は斬新さを極めた演出に没頭できたのかもしれない。

「映画文法? そんなもん誰が決めたんだ!」――勝新は、本作の撮影現場でスタッフにこんなふうに怒鳴り散らしたという。当時の彼は、自由な制作環境を確保すべく勝プロダクションを立ち上げるも、旧態依然とした作品づくりを続ける日本映画界に不満を抱いていたようだ。しかし、勝新は決して闇雲に映画の常識を壊しにかかっているわけじゃない。その破壊衝動を支えているのは、「誰も見たことのない映画を作ってやろう」という遊び心と矜持。“勝新=豪放らい落な役者バカ”のパブリックイメージとは裏腹に、彼は前衛的かつPOPな映像作家の顔も持つ、まさしく“型破り”の才能の持ち主なのだ。かっこいいぜ、勝新!

泉 英一(ライター)

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2012.3.21

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第15弾!!
名優たちの三者三様の芸の醍醐味について語る!

●名優たちの三者三様の芸を楽しむ。これぞ映画の醍醐味!

赤穂浪士随一の剣客・中山安兵衛こと堀部武庸(たけつね)は、酒豪で喧嘩っ早いが情にもろい実在の人気キャラクター。その勇名を馳せた高田馬場の決闘を、阪東妻三郎、嵐寛寿郎、長谷川一夫が演じた映画版3本が放送される。名優たちのそれぞれの持ち味を見比べる絶好の機会だ。

元禄7年2月11日、江戸郊外高田馬場で、伊予西条藩・松平頼純の家臣・萱野(すがの)六郎左衛門と、村上庄左衛門が決闘することに相成り、萱野と叔父・甥の契りを交わした剣客・中山安兵衛が助太刀に馳せ参じる。これは「忠臣蔵」前の逸話として、講談や芝居として古くから親しまれてきた。

サイレント時代から何度も映画化されてきた高田馬場の決闘だが、今回放送される日活版『決闘高田の馬場』は誉れ高き1本。阪東妻三郎が安兵衛に扮した1937(昭和12)年の『血煙高田の馬場』を、戦後上映の際に改題したこの作品は、娯楽映画の巨匠・マキノ正博監督の演出が冴え渡る傑作だ。阪妻が酒飲みで豪快な剣豪を生き生きと演じ、叔父・六郎左衛門(香川良介)の説教にしんみりしたかと思えば、いざという時の暴れっぷりが実にイイ。叔父の危急を知らせる手紙を読むシーンのタメの演技、決闘シーンのスピーディなチャンバラの見事さ! クライマックスは映画史に残る名場面のオンパレードだ!

そして戦後、1951(昭和26)年の新東宝版『「高田の馬場」より 中山安兵衛』では、鞍馬天狗でおなじみの嵐寛寿郎が安兵衛に扮している。TV版の初代・水戸黄門で知られる東野英治郎演じる六郎左衛門の説教が、いつしか酒席になる展開のおかしさ。しかも嵐寛が演じると、どこか鞍馬天狗のオジサンのような生真面目な趣があり、内面的な奥行きのあるヒーローになる。クライマックスの決闘シーンで見せる、軽妙かつ鮮やかな立ち回りも格別だ。

最後は、天下の二枚目・長谷川一夫が安兵衛に扮した1954(昭和29)年の大映版『酔いどれ二刀流』。高田馬場の決闘で一躍、ヒーローになった安兵衛が、堀部弥兵衛(菅井一郎)に婿入りするまでを描いた異色作だ。安兵衛を慕う、可憐な軽業師のお鶴に扮した若尾文子は、時代劇初出演の初々しさ! 長谷川一夫の実に優雅な立ち回りと併せて堪能したい。

こうして3本が揃い踏みするのは貴重な機会。豪快な阪妻、ヒロイックな嵐寛、そして美丈夫な長谷川一夫と三者三様の芸を楽しみ、日活・新東宝・大映、各社のテイストを味わうのも映画を見る醍醐味である。

佐藤利明(娯楽映画研究家)

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2012.2.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第14弾!!
あの人気俳優の新境地を拓いたドラマについて語る!

●大沢たかおが新境地を拓いた複雑で奥深~い中毒ドラマ

ドラマや映画の魅力は、80%はキャスティングで決まると言われている。確かに、どんなに優れた脚本があったとしても、それを伝える俳優が適任者でなければアウト。いい作品を作るのに、いい俳優は欠かせない。

『アナザヘヴン eclipse』は、面白い脚本にいい役者が結集したからこそ、もう10年以上も前の作品なのに色褪せていない。主演は、『JIN-仁-』のヒットも記憶に新しい大沢たかお。この作品以前は、大沢といえば『星の金貨』や『深夜特急』のイメージが強く、繊細なキャラの印象が強かった。しかし、本作ではワイルド&セクシー! かつ、お茶目(好きな相手とのセックスが叶わず、思わずプラネタリウムで『織女と牽牛は1年に1回でもセックスできていいな』と言ってしまう姿は可愛い!)な休職中の刑事、皆月悟郎役で大きくイメージを変えた。

実は、大沢はもともと新しもの好きで、チャレンジ好き。役者という仕事も、チャレンジして新しい発見をしたり経験をしたりできるのが魅力で、それができないならやることに意味はないと言いきる人物である。そういうチャレンジ精神と皆月悟郎役が合致し、結果、「この作品での大沢が一番好き!」と今も言いきるファンを残すほど魅力的に輝いたというわけ。

大沢だけじゃない。本上まなみもトラウマを抱えるヒロインになりきっているし、ブレイク前の柴咲コウが出ていたり、今やママさんタレントとして人気を獲得している新山千春など、芝居のできる役者が揃っている。そんなメンツに、『NIGHT HEAD』の飯田譲治がひねり出した“先が見えない複雑に入り組んだ物語”がプラス。「なぜ、このキャラがこんな発言をするのか?」とか、最初は意味するものがわからなかったことがどんどん明らかにされていく感じが、まるでパズルのピースがハマっていくようで面白い。

さらに本作は、今では当たり前となったドラマと映画を連動させる先駆的作品だった。そもそも、飯田譲治と梓河人によるホラー小説が原作で、それを映画とドラマで実写化した後、ゲームソフトも発売。その作品群は“アナザヘヴン・コンプレックス”と呼ばれた。もちろん、ドラマ版と映画版は独立しているので別に楽しめるが、ドラマ版に映画版の登場人物が出演したりとリンク感も面白い。そういう実験精神もドラマを輝かせたポイント。まだ映画版を未見の方は、この機会にぜひ見てほしい。そうすれば、さらにドラマ版の作品世界を楽しめるはずだ。

横森文(映画ライター)

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2012.1.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第13弾!!
記念碑的な“怪作”について語る!

●巨大熊とマタギの死闘を描き、今なお異彩を放つ記念碑的な“怪作”

クエンティン・タランティーノ監督を筆頭に、国内外でコアなファンを持つJJサニー千葉こと千葉真一。彼はなぜ、根強い人気を得ているのか? その理由の一端は、この作品を見ればわかるかもしれない。主宰していたジャパンアクションクラブ(JAC、現・シャパンアクションエンタープライズ)の創立20周年を記念して、千葉真一が初監督を務めた『リメインズ 美しき勇者〔つわもの〕たち』だ。

物語は、タイトルからは想像もつかない“人喰い熊 vs マタギ軍団の死闘”。その描写たるや、熊の鋭い爪が人間の脳天をカチ割り、バリバリと音を立てて人肉を食べるなど、容赦のないスプラッターホラー級。だが一方で、体長3m×体重400kgのヒグマは、シーンによって妙に人間臭い動きを見せて親しみを持たせてくれる。

トドメはクライマックス。ヒグマは女性しか襲わないことから、ヒロインのユキ(松村美香)が自らおとりとなっておびき寄せる作戦に出るのだが、熊を前にして着物を剥いだ際にあらわになる皮ビキニは大正ロマンの香りが漂い、強烈なインパクトを残す。物語は1915年(大正4年)に北海道で起こった三毛別羆事件がベースになっており、ニセコ近辺の雪山で大迫力のロケを敢行するなど、真に迫っている。しかし、実話を遥かに超える想像力が全編に炸裂しており、今なら国内外のファンタスティック映画祭で引っ張りだことなること間違いナシの1本なのだ。

JAC創立20周年記念作とあって、スタッフ&キャストは豪華。菅原文太がマタギ軍団のリーダー役で雪山を駆ければ、今は亡き長門裕之&南田洋子夫妻も友情出演。また、千葉真一の盟友・深作欣二監督が企画監修、元JACの真田広之が主演と音楽監修を務めるなど、後方支援もバッチリだ。真田は作詞・作曲を手掛けた主題歌「リメインズ」(歌は松村美香)も提供しており、最後まで見どころたっぷり。千葉同様、今やハリウッドスターとなった真田映画としても、異彩を放つ記念碑的な怪作となっている。

中山治美(映画ジャーナリスト)

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2011.12.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第12弾!!
無国籍な魅力はワールドワイド?!について語る!

●我らがエースのジョー、メキシコに参上!

かつて宍戸錠さんに取材でお会いしたとき、錠さん(と呼ばせていただきます!)は言った。「“俳優”っていう言葉が一番好きだな。“人に非(あら)ずして、人を憂える”と書いて“俳優”。やってみて、自分で天職だと思った」と。そしてこう続けた。「ずいぶん悩みもしたけれど、そういうときはオーソンさんに相談した。俺の若い頃の日記帳は、尊敬する俳優オーソン・ウェルズとの架空の会話体。“オーソンさん、こういう場合は一体どうする?”ってね」。

そのオーソン・ウェルズが監督を手がけ、悪徳刑事を演じ、アメリカとメキシコの国境地帯を舞台にしたのは『黒い罠』('58)であったが、錠さんもメキシコで主演作を撮ったことがある。公開時のポスターに、「メキシコに日本映画初の大ロケ敢行!」と銘打たれた『メキシコ無宿』だ。'62年1月3日公開の正月映画で、監督は同じ年、(芦川いづみと)錠さんと『硝子のジョニー 野獣のように見えて』も発表した蔵原惟繕。こちらは名作の誉れ高き逸品だが『メキシコ無宿』は珍にして奇なる和製ウエスタン。故郷を追われるように来日し、命を落としたメキシコ人ペドロ(アントニオ・メリーナー)の身の潔白を証明すべく、錠さん扮する主人公、命懸けの仕事を請け負う“危険屋ジョー”が一路メキシコへ。

ところで、60年代初頭、日活は海外ロケものに力を入れていた。先鞭をつけたのは石原裕次郎で、'59年7月12日に封切られた『世界を賭ける恋』でヨーロッパロケを敢行。同時に撮影された『裕次郎の欧州駈けある記』が同年9月1日に公開。'60年12月27日にロードショーされた『闘牛に賭ける男』ではスペインロケ。かたや小林旭は、'61年1月3日公開の『波涛を越える渡り鳥』で、香港とバンコクへ。本作には錠さんも出演していて、「あのときはトランジット(乗り継ぎ)で台北空港に立ち寄ったら、「熱烈歓迎 小林旭(シャオリンシー)先生」って横断幕が張られていて、大変な騒ぎになったヨ」と語っていた。

さらに石原裕次郎は『アラブの嵐』('61年12月24日公開)でエジプトへ。 他にも裕次郎がアラスカ、はたまたナイアガラ、小林旭がアマゾン、赤木圭一郎がキリマンジャロへとロケする映画も企画されていたそう。日本で「海外旅行が自由化」されたのは'64年4月1日以降のこと。そういった映画群と並んで『メキシコ無宿』も当時の“観る海外旅行”のひとつであり、また、故に今なお貴重な“時代性の記録”でもあるのだ。

ラテンアメリカで最初の社会革命の記念日(=11月20日)、街頭パレードで沸く街並み。これを手持ちカメラで捉え、ちょっと“ヌーヴェル・ヴァーグ”しているのが蔵原作品らしい。一転、サボテン茂る田舎町に舞台を移すと西部劇タッチに。ソンブレロをかぶり、マリアッチが流れ、気分は“アミーゴ”なジョーとメキシコ人俳優たちとの会話が突如、日本語吹き替えとなるトンデモな展開がスゴい。床屋のパンチョ・サンチェス役、インチキ外国語の名手・藤村有弘の怪演も見モノで、荒唐無稽な映画作りが許された大らかさがたまらない!

'05年、イタリアのウーディネ極東映画祭で日活アクションの特集があった際、錠さんは舞台挨拶し、2,000人あまりの観客をイタリア語と日本語と英語で沸かせ、大笑いさせたという。「それくらいのことは朝飯前なんだ」。かつてメキシコでも鳴らした無国籍な宍戸錠の魅力は、ワールドワイドなのである。

轟夕起夫(映画評論家)

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2011.11.21

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第11弾!!
今回はあのフォークの神様が主演した作品について語る!

●フォークの神様が主演した幻の映像詩

公開2週間で打ち切られ、それゆえ封印映画扱いされ、見る機会がなかった作品がオンエアされるというのは喜ばしいこと。主演はフォークの神様・岡林信康。“くそくらえったら死んじまえ”の「くそくらえ節」など、プロテストソングで伝説的存在となった岡林は、僕にとっては、あの“はっぴいえんど”を従えていただけでもう神様なのである。

この『きつね』は、破傷風の恐怖をまるでホラー映画のように描いた『震える舌』の野村芳太郎(製作)と井手雅人(脚本)のコンビが、大船育ちの新人・仲倉重郎を監督に迎えて、キタキツネなどを媒介とする“エキノコックス病”に侵された少女と若き科学者との恋を描いた作品だ。

当時、映画の原稿を書き始めたばかりの僕は、あらぬ期待を抱いて松竹の試写室で『きつね』を見た。『北の国から』や『キタキツネ物語』で、すっかり北海道の親善大使のようなイメージとなっていた“きつね”が、恐ろしい病気の宿主だったという、ホラー風味の難病ものと思い込んでいたからだ。だが、期待は見事に裏切られた。一般公募で選ばれた当時14歳の高橋香織の眼ヂカラに圧倒された。少女という時代にしかない、ふとした表情の危うさ。周到に計算されたドラマの中の、計算しようがない美しさに魅了された。

初夏の根釧原野。北海道で低温科学を研究する35歳の科学者・緒方(岡林)が、14歳の少女・万耶(高橋)と出会う。彼女は緒方に淡い恋心を抱き、人妻(三田佳子)との不倫に疲れていた緒方は、少女のひたむきさに心を動かされる。

坂本典隆のキャメラが捉えた美しい北海道の自然。これまで演技とは無縁だった岡林信康の朴訥さ、何を考えているわからない男の優柔不断さと、高橋香織の少女特有の美しさ。二人の素人が、かくもナチュラルに、ストレートに迫ってくると、不思議な感動がある。

やがて万耶は、“エキノコックス病”で死期が近いことを知る。何も知らない緒方と、残り少ない命を生きようとする万耶。いくつになっても男は女の気持ちなどわかっちゃいない、ということも含めて、さすが井手雅人脚本。クライマックス、万耶の“精神的”仇討ちのために、緒方が流氷に乗ってやってくる“きつね”をハンティングに行くシーンは、一歩間違えば凡庸になってしまうのに、力強いカタルシスがある。

動物を猟銃で撃ち、オジサンは少女と結ばれる。現在のモラルでは考えられない “くそくらえ!”な部分も、今ではカルトの由縁かも?

佐藤利明(娯楽映画研究家・音楽評論家)

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2011.10.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第10弾!!
今回は“元祖・女子力”について語る!

●元祖・女子力が炸裂する日本版「イタキス」

5歳から通っていたピアノの先生の家にいつも置いてあった「別冊マーガレット」。私がレッスンの待ち時間に必ず読んでいたのが、多田かおるの漫画だった。パワフルなヒロインのドタバタに笑って、泣いて、心ときめかせて…。幼い私に本当の“胸キュン”の意味を教えてくれたのは、多田かおるのラブコメだったような気がする。

そんな多田かおるの未完の遺作「イタキス」こと「イタズラなKiss」は、台湾・韓国でもドラマ化されて大ヒットしている不朽の名作。日本では、作者が存命中にドラマが放送されていたことを覚えている人も多いだろう。時を遡ること15年──1996年、『イグアナの娘』『闇のパープル・アイ』と、少女漫画のバイブルを次々とドラマ化していたテレビ朝日「月曜ドラマ・イン」のシリーズだ。

物語のヒロインは、いつも一生懸命だが不器用な女子高生、琴子。彼女は運動神経も成績も抜群の入江くんを好きになるが、冷血な彼にひどい振られ方をしてしまう。ところが、ひょんなことから二人はひとつ屋根の下に暮らすことになり…。

本作で琴子を演じたのは、“国民的美少女”佐藤藍子。ショートヘアの彼女は原作よりもボーイッシュだったが、髪を振り乱し、目の下にクマをつけ、血を流しても、一途に入江くんを追いかける姿は漫画のテンションそのままだった。そして、入江くんを演じたのは、“ジュノンボーイ”柏原崇。琴子に冷たく「バーカ」と言い放つ原作通りのドSっぷりだったが、その不機嫌な表情の中に「白線流し」に通じる繊細さも垣間見せて、私を“胸キュン”させてくれた。

後の台湾・韓国版と比べると、前向きな努力で未来を切り開いていくヒロインのパワーが全面で炸裂していた日本版。今思えば、主題歌「STEADY」を歌っていたのが、小中学生ながらパワフルなパフォーマンスで世間をあっと言わせたSPEEDだったのも感慨深い。

当時、ヒロインに共感した少女たちは今や大人になり、世は“女子力”の時代に。この日本版「イタキス」には、元祖・女子力というべきトキメキとパワーが詰まっていると言えるかもしれない。

小酒真由子(ライター)

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