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2013年5月20日(月)

《ぴあ×チャンネルNECO》強力コラボ 【やっぱりNECOが好き!】 第20弾~第29弾

2013.5.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第29弾!!
あの俳優の“いちどは見たい”珍品?!

●沖雅也出演の“いちどは見たい”珍品中の珍品!

'83年6月28日、彼は31 歳の若さで夭折した──。

その二枚目スター・沖雅也といえば、『必殺仕置人』('73)のキーマン“棺桶の錠”や、『殺仕置屋稼業』('75)の竹串で悪人の首筋を刺す殺し屋・市松、はたまたスーパークールな“スコッチ刑事”を演じた『太陽にほえろ!』も外せないし、麻生探偵事務所のCAP役がイカしてた『俺たちは天使だ!』も忘れられない……わけだが、“お宝”持ちのチャンネルNECO、今回は彼の没後30年の特集に、未ソフト化のこんなレアな映画を投入してきた。

『いちどは行きたい女風呂』。そう。出てるんですヨ、予備校通いの風呂屋の息子という設定で、日活時代の若き沖雅也が! 公開されたのは'70年。ロマンポルノ前夜の艶笑劇、にして破壊的なナンセンスコメディーで、当時のヒット曲、南雲修治の「女風呂の唄」の歌詞が元ネタ。これが“いちどは見たい”珍品中の珍品なのである。

要は予備校生たちの悶々とした欲求不満の青春像を切り取った映画なのだが、時は'70年、日活では『ハレンチ学園』シリーズが始まっていて、本作はこの流れに準じて生まれたものなのかもしれない。特筆すべきはやはり、今では信じ難いブッ飛び過ぎてる“70年の空気感”だ。

「女子高生がジュースにLSDを入れる」というギャグが平然と描かれ、土方巽率いる暗黒舞踏団が登場。ちょうど単行本が出たばかりの世紀の奇書「家畜人ヤプー」ならぬ、「家畜人プータロー」というタイトルの前衛的なアングラセックス劇を上演しようとしているのも“時代”だ。ゴーゴー喫茶のシーンでサイケなロックを聴かせる坂田晃一の音楽もグルーヴィン! ちなみに、沖雅也の兄役、銭湯の番台に立つメガネ男が“ナンセンスフォーク”の王・南雲修治サンなのでお見逃しなく。

監督は、日活生え抜きでいまだ現役、石原裕次郎主演の『夜霧よ今夜も有難う』('67)を大ヒットさせたことでも記憶される江崎実生。沖雅也とは(本作にも出演している夏純子ともども)、東宝にて『高校生無頼控』('72)という“性”春映画も撮っている。

さて、沖雅也と共に受験生ボンクラトリオを形成したのは、吉永小百合と日活青春映画の“純愛路線”で一時代を築いた浜田光夫と、後年(='76年)、ロッキード事件で資金を受け取ったとされ、起訴された昭和のフィクサー・児玉誉士夫の豪邸にセスナ機(正確にはパイパー社製PA-28機)で“KAMIKAZE”(特攻)を仕掛け、この世を去った前野霜一郎…と強力な布陣。劇場用ポスターには威勢よく「大学なんていつでも入れる! 入るに入れぬ女風呂!」てなコピーが踊っているが、後半はこのトリオでハチャメチャな物語に輪をかけ、「女風呂に突撃ィ~」となる展開も。沖雅也がバイクにまたがるカッコいいシーンもあるので、ファンの方は必見!

なお、今月は『いちどは行きたい女風呂』以外にも、沖雅也の没後30年特集として、19歳で日活ニューフェイス入りした初々しいデビュー作で未ソフト化の『ある少女の告白 純潔』('68)や、渡哲也の弟役で凄絶な演技を見せた『関東流れ者』('71)も放送される。不世出のスターであった彼に、改めて思いを巡らしてみてはいかがだろうか。

轟夕起夫(映画評論家)

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2013.4.21

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第28弾!!
あの大スターもカンフーアクションをやっていた!

●田宮二郎×カンフーのはみだし刑事もの!

'74年。突然、男の子たちがヌンチャクを振り回し始めた。少林寺拳法の道場があちこちにでき、ド素人の入門者で満杯になった。もちろんすべては、この年の正月映画として封切られた『燃えよドラゴン』の影響だ。

当然、日本映画界もブームに便乗。当時はまだ「カンフー映画」というジャンルの認識は薄く、似て非なる“カラテ映画”が数々作られた。だが、本場のカンフー系アクション映画に最も近い出来を示したのは、意外にもこの“「ダーティハリー」風はみだし刑事もの”だったのだ。

主人公は、モデル殺人事件を捜査する、はみだし刑事“コブラ”こと小村。彼は事件の背後に、代議士候補とそのフィクサー、そして暴力団の影があることを突き止めるが…。

主演は元・大映のスター、田宮二郎。しかし『悪名』『犬』シリーズなどで演じた洒脱なクールガイとも、最晩年の代表作『白い巨塔』の冷徹な悪徳医師とも違ったイメージだ。なんせ、タイトルバックからして裸に剥いた女とのカーセックス (しかも昔の恋人役、山本陽子の肢体を思い浮かべながら)ってんだから、陰がある、というより相当荒んでいる。現場にはサイレンも鳴らさず、むやみに公道を暴走して乗りつける(どうやら『ブリット』を意識しているらしい)。得意技は拳銃よりも、なんとカンフー! そう、明らかに空手ではなく、香港流のカンフー・スタイルなのである。

これはおそらく、「監督・井上梅次」の理由が大きいだろう。60年代、香港の大映画会社ショウ・ブラザーズは、中平康をはじめとする何人もの日本人監督を招いて映画を撮らせたが、彼もその一人。そんな縁か、ショウブラの名女優・汪萍(ワン・ビン)が、田宮に恨みを抱く香港の刺客として出演(黄色いサングラスをかけた彼女の主観ショットは、画面に黄色い眼鏡形のフレームが!)。さらには香港の悪役スター・高強(カオ・チャン、ジャッキー・チェンの初期作品にも数多く出演)が日本人の殺し屋役で登場し、強烈至極な存在感を見せつける。貧乏暮らしを母親に八つ当たりするや、狂ったように暴れ始めて自分の家を無茶苦茶に破壊するさまは、「技のデモンストレーション」というサービス・シーン的意味合いを完全に超えている。

田宮との決闘シーンも単なる真似事ではない本格的なものに仕上がっているのが驚きだが、本作のアクション振付は、おそらくこの高強が担当したのではないだろうか? 実際、これはほとんど忘れられた映画といえるが、この時代までのアジア映画人たちのコラボレーションを再考するに絶好のモデルケースでもあるだろう。

なお、今月は本作以外にも、同時期に製作された“はみだし刑事”系列の必見作がラインナップされている。劇画を原作に、悪には容赦のない非情な刑事を渡哲也が演じる『ゴキブリ刑事』('73)は、後年の『西部警察』('79~'82)へと繋がる一作。『転校生』('82)、『さびしんぼう』('85)などで大林宣彦監督と組むことになる剣持亘が脚本を書いているのも意外だ。

さらに、題名はハードボイルドなイメージだが、テロ組織に対抗する親子刑事(藤岡弘、伴淳三郎)ものの傑作として知る人ぞ知る『野獣狩り』('73)も放送。ファンキーな音楽は、再評価の機運高い村井邦彦。これが撮影監督デビューとなる木村大作の、高倉健映画や雪山ものとはまた違った、都会的な手持ちキャメラも鮮烈だ。

ミルクマン斉藤(映画評論家)

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2013.3.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第27弾!!
もの作りに懸けた人間の物語

●もの作りに懸けた人間の物語に、私たちは感動することができる。

今や世界を代表する企業となったトヨタ自動車。その創業に至る物語を、新藤兼人脚本、佐藤純彌監督で描く。

物語は、豊田佐吉が自動織機を発明する明治期から始まる。義母に育てられた長男の喜一郎が成人し、父譲りの研究者魂を発揮。経営陣と対立しながらも、国産自動車の量産体制を確立していく。

何より俳優陣が豪華だ。喜一郎役に市川染五郎(現・松本幸四郎)を配するほか、田村高廣、司葉子、三橋達也、神山繁ら演技派が顔を揃える。染五郎と親子共演となる松本金太郎(現・市川染五郎)が喜一郎の子供時代を演じ、今の面影があって感慨深い。

立志伝中の人物を讃える映画は、しばしば真面目になりがちだが、そこは新藤=佐藤コンビのこと、深みのある娯楽大作に仕立てている。佐吉も喜一郎も、一種の狂気をはらんだ人物として描かれるのが面白い。こうした人物が牽引してこそ、新しい事業が成功するのだ。

旧知の官僚から、国産車保護に関する法律が出来るとの事前情報を得て、無理して自動車の量産に入るという喜一郎のしたたかさも描かれる。無理が祟って故障が続出。怒ったドライバーの「車に故障はつきものだが、これは故障に車がついとるようなもんだ」という台詞は笑えた。

新藤脚本らしいのは、随所に戦争の映像を挿入している点だ。日清から太平洋まで、トヨタ勃興には戦争が影を落としていることを物語る。喜一郎が本来作りたかった大衆乗用車は、平和が訪れてようやく売れるようになる。新藤の反戦への強い思いが表れている。

バブル期以降、もの作りへの敬意が薄れ、金融で利益を得る人々がもてはやされた。しかし今でも、もの作りに懸けた人間の物語に私たちは感動することができる。トヨタの新入社員は研修の一環としてこの映画を見せられると聞く。なんと羨ましいことだろう。

今月は特集【名画 the NIPPON/道をひらく~挑戦者たち~】をお届け。『遙かなる走路』のほか、日本初の超高層ビル・霞が関ビル建設を描いた佐野周二主演の大ヒット作『超高層のあけぼの』と、ホンダ創設者を主人公にした感動作『妻の勲章』という、日本のもの作りに勢いがあった時代を描いた映画3本を放送する。

田中一郎(新聞記者)

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2013.2.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第26弾!!
クリエイターの根本を発掘?!

●クリエイター・竹清仁の根っ子をほじくり返して作り上げた空想科学冒険活劇映画!

あの日のことは、よく覚えている。行きつけの居酒屋で飲んでいたとき、先輩であるCMプロデューサーが突然、「紹介したい奴がいる。ちょっと会ってくれないか」と切り出した。やがて現れたのは、色が白くて髪の毛サラサラの柔和な男。それが竹清仁だった。彼は会ったばかりの僕にこう言った。「脚本を書いてくれませんか?」。そして一枚のDVDを差し出した。

翌日、僕はひどい二日酔いに悩まされていた。ここまでひどいのは一年に一度あるかないか、それくらい強烈なものだった。突き上げてくる酸っぱいものに堪えながら携帯電話を探していると、鞄の中でふと透明のケースが目に付いた。「何だこれ」と思いつつデッキの中へ。昨日の話はすっかり頭から抜けていた。

画面には人体模型が現れた。実にリアルに、生々しく動く。しかし、これがどうしようもないくらい“マヌケ”なのだ。足の小指を机の角にぶつけて苦しんだり、自分の心臓とカビパンを間違ってくっ付けようとしたり…。僅か5分ほどの短編だったが、魅入られたとはこういうことを言うのかもしれない。僕はその場で、昨夜もらった名刺に電話をした。そして、竹清くんの留守電に「やる」と吹き込んだ。いつの間にか二日酔いはどこかに消えていた。『放課後ミッドナイターズ』はこうしてスタートした。

それからは頻繁に会って打ち合わせを繰り返した。というより取材だ。竹清くんへの取材。彼が頭の中に何を思い浮かべ、どんなことに興味があり、どうすれば楽しいと思うのか、人を驚かせるのが大好きな芸人気質の根っ子を徹底的にほじくり返した。だから、完成したこの作品は竹清仁そのものだ。オカマの半漁人もホルマリン・ラビッツも、ウ○コのソテーが大好物なハエの王も、みんなそう。人体模型と骨格標本が織り成す裸の物語を創作しながら、実は一人のクリエイターの血や肉や骨や感情をパズルのように構築していた。まさにパラドックスである。空想科学冒険活劇映画という怪しい呼び名に相応しい。

小森陽一(漫画原作者・脚本家)

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2013.1.22

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第25弾!!
エロさは演技力だ!!

●女優・谷村美月の色っぽさにドキドキ!

“芸術は爆発”だが、『たぶらかし~代行女優業・マキ~』を見て思うのは“エロさは演技力だ!”ということ。

ヒロインのマキを演じるのは、若手実力派女優の谷村美月ちゃん。彼女はこのドラマで、ほどよく肉感的な太ももや胸の谷間を惜しげもなく見せて、足フェチ、胸フェチ、それぞれのニーズを満たしてくれる。清楚な女子高生役の印象が強い彼女、「いつのまにこんなに色っぽく成長したの?」とドキドキ。

その秘密は、美月ちゃんが演じたマキという役にある。マキは所属する劇団がつぶれて演じる場所を失った女優。そのうえ多額の借金も抱え、返済のために特殊な仕事を始める。演じる場は舞台でも映画でもドラマでもなく、日常。葬式の死体、人妻、女社長…などなど、設定を与えられたらその人物になりきり、脚本なし、結末のわからないアドリブ芝居を行う。

依頼主には身代わりを頼むだけの複雑な事情があり、マキは毎回、事件に巻き込まれるが、解決の鍵は演じている役にある。例えば、亡くなった妻の笑顔を再現することで彼女の死因に気づいたり、夫の取引先の男からセクハラされている妻の怒りや哀しみを、代わりに相手にぶつけて復讐したりする。

あらゆる役になりきれる女優役に美月ちゃんが抜擢されるのは当然。最近だと、新藤兼人賞金賞を受賞した赤堀雅秋監督『その夜の侍』で、交通整理のバイトをしている女性役も良かった。この役は、山田孝之演じる乱暴な男に因縁をつけられてもなぜか拒まず、その後、彼がアパートに転がり込むことを許してしまう。交通整理の制服は色気も素っ気もないが、その下の柔らかい隙をチラ見せするテクニックは手練れの域である。

もしかしてもしかしたら、マキの色気も、女優・谷村美月のたぐいまれなる演技力なの? それとも密かに成熟していたの? アクトレスは実にミステリアスだ。

この虚実ボーダレスな設定で人間の隠された感情を引きずり出すのは、ヒット・ドラマを数多く手がけてきた遠藤光貴(総合演出)のほか、映画『NECK ネック』の白川士監督、映画『しあわせのパン』の三島有紀子監督といった才能あふれる演出家陣。最近の深夜ドラマでは、冴えないサブカル系草食男子の恋を描いて映画化もされた『モテキ』や、主人公の食事シーンを淡々と綴る独特の世界観が人気を博した『孤独のグルメ』など、ユニークな作品がどんどん爆発中だが、『たぶらかし~代行女優業・マキ~』もそのひとつと言えるだろう。さらに、マキの代行俳優仲間で山本耕史がレギュラー出演し、ゲストには向井理(珍しくコミカル演技)らも登場。こんな代行名優たち、実際にいたら雇いたいです!

木俣冬(フリーライター)

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2012.12.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第24弾!!
理屈ぬきにかっこいい!!

●本能に訴えかけてくる出崎統の演出は、理屈ぬきにかっこいい

出崎統の名前を知ったのは、1970年代後半。子供のころに貸し借りして読んでいたアニメ雑誌からだった。当時黎明期だったアニメ雑誌は、さまざまなクリエイターを取り上げ、その業績を彼らの肉声とともに初めてファンに提示してくれていた。僕はライトユーザーだったが、作り手の話はやはり興味深い。掲載された顔写真を見て、「こういう人がアニメを作っているのか」と知った。そして、当時何気なく見てきた『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『ガンバの冒険』『宝島』という話題作の数々が、出崎統という名前でひとつに繋がっていった。あのエネルギッシュな作品たちは、すべて出崎統という人が作っていたのか!

出崎は1943年生まれ。国内最初の本格的TVアニメシリーズ『鉄腕アトム』を見て衝撃を受け、手塚治虫の虫プロダクションに入社。1970年の『あしたのジョー』で監督デビューを果たす。この時、弱冠26歳。手塚作品ではない『あしたのジョー』を手がけるにあたって、彼はそれまで虫プロの主流だった丸みを帯びた線を捨てた。この作品が求めているものは、もっと荒々しいタッチ。野生の熱気を放つ映像だと考えたのだ。

僕にとっての出崎版「ジョー」は初代ではなく、1980年に放送された『あしたのジョー2』だ。当時、友だちと一緒にのめり込んだ。初代よりも洗練されたタッチで、キャラの顔つきもよりシャープに。試合のシーンではリングを照らす光のきらめく効果のもと、緊迫感のある演出でジョーがライバルたちと拳を交えた。そして、ラストシーンなど「ここぞ」というときに出てくる止め絵の決めカット。まるでその場面の肖像画が一瞬にして描かれたように、それまで動いていたキャラが一枚の絵になり変わる。大げさに言うと、そこに“永遠”を感じて引き込まれた。後に、一枚絵の決めカットの技法は「ハーモニー」と呼ばれることを知る。

手塚治虫に影響を受けてアニメの世界に踏み込んだ出崎統が、数々のヒット作を手がけた後、再び手塚作品に戻ってきたのが1993年からスタートしたOVAシリーズ『ブラック・ジャック(OVA)』だ。手塚キャラの中でもひときわ陰影のあるブラック・ジャックを、あの出崎が描くということで大いに注目され、できあがった作品は称賛に値するものだった。

今回放送される『カルテX しずむ女』は、出崎が監督、脚本、絵コンテを担当した最後のエピソード。原作よりもシックで大人っぽい印象になっているのが出崎版「ブラック・ジャック」の特徴だ。ブラック・ジャックが依頼主と最初にホテルで面会するシーンにまずは注目してほしい。三日月病という公害病について深刻なやり取りをかわすブラック・ジャックたちの姿と、ホテルのサロンでピアノを弾く女性の姿が交互に描かれていく。このピアニストはストーリーには全く絡んでこないのだが、とにかくインサートが多い。ピアノの上を優雅に動いていく指が艶めかしく、それと対照的にブラック・ジャックは男の色気を発している。出崎の映像は本能に訴えかけてくる。だからこそ理屈抜きにかっこいいのだ。

2011年4月17日、出崎統は肺がんによって逝去した。

闘病中に『ブラック・ジャック(OVA)』最後の2話の制作が進められ、監修・シリーズ名誉監督として、『カルテXI おとずれた思い出』『カルテXⅡ 美しき報復者』に関わることになる。そして彼の死後、『カルテX』から約11年の時を経てこの2本が発表された。

それぞれ総監督を務めたのは、出崎のもとで鍛えられてきた桑原智と西田正義。出崎演出の継承を強く意識していることは、たとえば『カルテXⅠ』のヒロイン、西園寺ゆりえが日舞を披露するシーンに象徴されている。舞台に降り注ぐ陽光を透過光で処理し、ゆりえの舞いに飛び立つサギの姿をインサート。そして、ゆりえが倒れた場面の止め絵。ファンは誰でも、出崎を偲びながらこのシーンを見るだろう。

ブラック・ジャックの助手ピノコの誕生秘話という原作の重要エピソードを初映像化した『カルテXI』、独裁国の将軍に拉致され、その治療に当たる中で内乱に巻き込まれていく『カルテXⅡ』と、スケールの大きなストーリーが展開するこの2本は出崎の遺作であり、今回がTV初放送となる。出崎演出がこの先いかに受け継がれていくのかを確かめてほしい。

最後に、毎回のヒロインにも注目してほしい。出崎が描く女性の艶は、ちょっとほかの作品では見られない。すでに大人の方も、大人への階段を登っている最中の方も引き込まれること請け合いだ。

※文中「手塚」の「塚」は本来旧字ですが、環境によって文字化けすることがあるので、代用文字で表記しています。

鈴木隆詩(ライター)

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2012.11.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第23弾!!
三拍子揃った痛快「忠臣蔵」

●時代劇初心者も座布団をあげたくなる1本

年末といえば「忠臣蔵」。かつては、各映画会社がオールスターキャストを起用して繰り返し製作し、大当りをとってきた。

そこに威勢よく登場したのが、1962年の大映版『長脇差忠臣蔵』だ。やくざが主人公の“超異色”の忠臣蔵である。

ときは幕末。将軍上洛の行列が通るから、庶民の家々を破壊せよと無理を言う老中(名和宏)に談判しようとした掛川一家の次郎吉親分(宇津井健)が、理不尽にも死罪に処されてしまう。一家の大黒柱・喜三郎(市川雷蔵)は、苦悩の末に解散を決めるが、心には固く仇討ちを決意していた。一家の者たちも仇討ちのことは口に出せず、やくざ仲間からバカにされて悔し涙の日々。妹を老中の愛妾にし、十手を持って威張り散らす二俣の藤兵衛(上田吉二郎)の嫌がらせもエスカレートする。

この作品の4年前に作られた『忠臣蔵』で浅野内匠頭を演じた雷蔵は、ここでは大石内蔵助的役割でキリリとしたリーダーに。「骨を削り、血をすすってでも生き抜き、親分の恨みを晴らす」とその気迫はすさまじく、六郷の新三(林成年)はじめ、血の気の多い手下連中をよくまとめる。

見どころのひとつは、敵味方の情報戦。敵方のクールな参謀・小松伊織(天知茂)が、美人スパイ・おのぶ(近藤美恵子)を喜三郎に張り付ければ、喜三郎は恋人おしの(浦路洋子)を腰元にして城に潜入させる。が、その老中に扮するは、後にドラマ『水戸黄門』などでも“エロ悪代官”役で大活躍する名和宏ですよ。イヤな予感が…案の定、おしのはねっとり目線の殿に目をつけられて危機一髪!

いよいよ機は熟し、掛川一家は敵陣へ。ここに登場するのが、待ってました!大映の二枚看板スターの一人、勝新太郎だ。関東随一の侠客、「大前田英五郎御一行」と偽名で道中を続ける掛川一家。勝新は、本家本元の大前田英五郎その人なのだ。怒る子分をなだめて、ひとり静かに喜三郎と向き合う英五郎。当時、“カツライス”と言われて大人気の雷蔵と勝新が、「忠臣蔵」の名場面をやくざ版にして見せつける。緊迫の中、英五郎は喜三郎の正体を悟り、さらりと身を引く。クーッ、このカッコよさ。座布団差し上げたい!!

この他、清水の次郎長親分役の島田正吾、桂小五郎の大瀬康一、有栖川宮役の本郷功次郎など、豪華な顔ぶれが掛川一家を助ける。二枚目よし、重鎮よし、悪役よしの三拍子揃った痛快「忠臣蔵」。時代劇初心者も、きっと座布団をあげたくなる1本だ。

ペリー荻野(女流時代劇研究家)

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2012.10.21

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第22弾!!
19歳の頃の自分を思い出す名作

●19歳の頃の“自分だけの地図”が蘇る忘れがたい名作

1987年春に上京してから1年間、寮代わりのアパートに住み込みながら新聞店で働きました。

店主はアル中の(自称)元やくざ。年長者は店主にいつも殴られて鼻水を垂らしながら土下座する、漢字の読めないサイトウさん。ズーズー弁を恥として口をきかない集団就職くずれのタカハシさん。若手のまとめ役のアオキさんは「ここはゴミ溜め」と言いながら、一向に他の仕事を探す気配がなかった。大学生のナカイさんは親切だけど新興宗教の勧誘が目的。オクノさんの部屋はロリコンビデオが山積み。酒焼けで声が割れた店主の奥さんが可愛がる猫は、病気で顔が曲がりカサブタだらけ。火星人みたいだから名前はカセイニャン。

本棚に司馬遼太郎があったから唯一マトモだと思っていたタマチさんは、サイトウさんが殴られる横で朝飯を食うのに僕もすっかり慣れた秋、集金袋ごとどこかに消えました。

こんな同僚たちと互いに(一緒にいても時間のムダ)と思いながら、よく喫茶店で夕刊が届く前の時間を潰しました。映画の専門学校は、撮影実習でみんなが高揚し始めてからは行かなかった。毎日曇り空のような気がする19歳でした。

集金や夕刊はクサクサするけど、でも朝刊の配達は、ちょっとだけ楽しいんです。

夜明け前、まだ手つかずの街を僕だけが把握している順路通りにカブを走らせる。領地を勤勉に視察する小さな国の王のように、無為の庶民たちに情報と文化を与えて回る。清々しい気分にたまに酔える。

そんなとき、他店からまわってきたのが『十九歳の地図』のビデオです。(もう時効とさせてもらいますが)テレビの深夜放送を録画したVHS。新聞屋で働く人間をフシギなぐらいよく見てる映画という評判。あまりにも評判通りなので、熱烈に回覧し合いました。

僕にはもう一つの興味―それが『さらば愛しき大地』('82)、『火まつり』('85)で日本映画界の次代の巨匠と目されていた柳町光男の、劇映画デビュー作であること―がありましたが、見始めたらそんな前知識はブッ飛んだ。

主人公・吉岡と僕との違いは、いたずら電話をギリギリかけないだけ。後は鏡を見ているようでした。

朝刊配達時に味わえる、静かな街の一帯を支配している充足感。温かい声が家の奥から聞こえる、夕食どきの集金への怯み。若いのにタイヘンね、がんばってと綺麗な奥さんが声をかける、一戸建ての清潔な表札や鉢植えへの眩しさが裏返った憎悪。

吉岡を演じる本間優二の目つきの悪さは、僕にとってホンモノでした。暴走族だったのを監督に抜擢されて俳優になったなんて話は、さすがに眉ツバだろうと信じませんでしたが。柳町監督の第1作である暴走族を追ったドキュメンタリー「ゴッド・スピード・ユー!/BLACK EMPEROR」(’76)に、ホントに俳優になる前の彼が登場するのを見て、口がポカンとなるほど驚いたのは数年後です。

今からすればバブルという言葉に集約される、あのフワフワしてせわしない世間の空気と噛み合わないなかで「十九歳の地図」を見て、「そうか、オレってかなり下にいるんだ」と自覚する行為には、むしろホッとする思いが混ざりました。映画になってるからには、負け犬の存在を認めてくれるオトナがこの世にはちゃんといるってことなわけだし。

自分がどんな状況にあるのか、鏡のように見て認識できるのは、映画によるひとつの救いなんです。鈍く残る痛みは伴うとしても。

そろそろ勉強したい、と思い出した翌春、アル中の店主が僕の目の前で緑色のゲロを吐いて倒れ意識不明に。店が解散するドサクサの間に逃げるように辞めました。

いずれ、店があった場所を再訪しよう。そこから、19歳の記憶にある「自分だけの領地」を辿ってみるんだ。ずっと頭の片隅に計画として置いていますが、まだ実現していません。

おそらく行くことは無いだろうと、自分でも薄々はわかっているのです。

若木康輔(ライター)

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2012.9.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第21弾!!
一度見たらハマる!? 武侠ドラマの世界

“武術”と“任侠”、この2つを最大のコンセプトとする武侠ドラマは、日本でいえばチャンバラ時代劇にあたる。ただし、そのイメージで見るとあまりの違いに驚くだろう。さすが中華4千年の大風呂敷というか、秘伝奥義の満漢全席というか、メインキャラはもちろん、爺さん婆さんに至るまで武術の達人、なにかというとすぐバトルに突入し、宙を飛ぶわ、気を放つわと、アクションの派手さは世界一だ。その闘いがまた、些細な理由から世代間にわたる復讐の連鎖にまで発展したりして、「とりあえず冷静に話し合わんかい!」とツッコミたくなることも多いが、それだと物語がすぐ終わってしまうので、どんどん話をこじらせていくのがお約束。おかげで続きが気になって仕方がない、この徹底したサービス精神とスピード感が武侠モノの醍醐味だ。

そんな中華エンタメワールドを確立した三大小説家が、金庸、梁羽生、そして古龍。とりわけ古龍は登場人物のキャラの立ちっぷりが際立つ、どんでん返しに満ちたハードボイルドな作風で知られる。『浣花洗剣録〔かんかせんけんろく〕』は彼の比較的早い時期の小説で、過去には香港でドラマや映画になっている。

ちなみに、同じ原作のドラマ化とはいえ、新作は単純なリメイクではない。'78年の香港版は、天下無敵の剣客・白衣人(佐々木小次郎がモデルとおぼしき怪人物!)に父を殺された主人公の方宝玉(まだブレイク前だったレスリー・チャンが初々しく演じている)が、いろいろな苦労を経て仇打ちに臨む物語。一方、香港と中国の人気スターを起用したこの最新の中国版は、白衣人のキャラを踏襲したストイックな剣客・呼延大臧(ニコラス・ツェー)と、彼に祖父を殺されてー実は死んでいないのだがー復讐を決意した好青年・方宝玉(チャオ・ジェンユー)を主人公とし、二人を異父兄弟というひねった設定にするなど、ひときわ複雑で波乱万丈なストーリーが展開する。

こうした大胆なアレンジも、登場人物やストーリーがよく知られているからこそ可能な、武侠モノの得意ワザ。時代時代で旬のアイドルが斬新なキャラクターイメージを作り上げていく。それが何度リメイクされても期待と注目を集めるゆえんなのだ。

浦川とめ(ライター・翻訳業)

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2012.8.20

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第20弾!!
ツッコミどころ満載の超大作について語る!

●ツッコミどころ満載の超大作!!笑う前に正座して見ろ!

僕の実家は駄菓子屋を営んでいて、怪獣ブロマイドなどを扱っていたこともあって、怪獣は幼いころから身近な存在でした『大巨獣ガッパ』を初めて見たのはテレビ放映。最初はとにかく、美樹克彦さんの歌う青春歌謡のような主題歌と、クライマックスに流れる童謡のような仔ガッパの歌のインパクトにやられました。“これはほかの怪獣映画とは何か違うぞ”と。

ただ、日本人が顔を黒く塗っただけの南洋の原住民が登場したりと、当時ならではのチープさもあり、見ようによってはツッコミどころ満載の映画と思われかねません。でも、実は「ガッパ」は1960年代の日活最大級の超大作なんです。主演は日活青春映画の大スターだった川地民夫さんと山本陽子さん。まだ新人だった頃の藤竜也さんも出ています。後に日活ロマンポルノでその名を轟かせる小沼勝監督が、助監督で参加しているのも見逃せません。

 超大作たる所以はほかにもあります。「ガッパ」は、特撮のノウハウもないところから試行錯誤で作り上げていった、まさに日活の社運を懸けた作品だったと思います。僕自身も特撮映画を撮っているのでよくわかるのですが、実物大のガッパの卵を使った洞窟のセットや、俯瞰でも撮れるほどの巨大な飛行場のセット、オベリスク島の大勢の原住民と、ガッパが壊すホテルで行われている宴会や結婚式のエキストラの数などなど、莫大な製作費がかかっていることが容易に見て取れるのです。

また、急激に成長する仔ガッパの大きさを見せるために、わざわざ少年との合成シーンを作ったり、ラストでも仔ガッパと母ガッパがワンカットで連続して飛び立つという手間暇かかった操演を見せてくれます。そして何より、父ガッパ、母ガッパ、仔ガッパと3体もの高価な着ぐるみを作りながら、ガッパ親子の愛情物語にして戦わせないという贅沢さ! しかも、ガッパを見世物にしようと企む社長と母を失った一人娘との親子の姿を重ね、見る者を泣かせてしまう…。東宝の怪獣映画とは違うものにしたかったのかもしれませんが、後に多くの良質な児童映画を作ることになる日活ならではのストーリーという気がします。

「ガッパ」は、見れば見るほど丁寧に、そして愛情を持って作られた映画だということがわかるはずです。2回目からは笑いながら見てもかまいません。でも、笑う前に正座して見ろ! これが僕の思う「ガッパ」の正しい見方なのです。

井口昇(映画監督)

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