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2019年12月24日(火)

《ぴあ×チャンネルNECO》強力コラボ 【やっぱりNECOが好き!】 第100弾~第108弾

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第108弾!!
もう一度、TVの力に期待したくなるぶっ飛び食リポ番組

「ウミガメのスープ」という話をご存じだろうか? たった一度の食事が人生を変えてしまう話で、水平思考クイズ(思考パズルの一種)としても知られている。こんな話だ。
「ある男が、レストランでウミガメのスープを出すというので食べに行った。運ばれてきたスープを飲むとけげんそうな表情で店員に、『これは本当にウミガメかね?』とたずねた。店員は『はい、正真正銘、ウミガメのスープでございます』と答えた。男は青ざめた表情で店を出て行くと、自宅で命を絶った。何があったというのだろうか?」。答えは記事の最後に…。

食は生きていく上で必要不可欠なものだ。栄養補給と同時に楽しみでもあり、できればおいしいものを食べたいと思うのが人情だ。だからTVでは、商店街の食べ歩き番組から高級メニューの金額当て番組、セレブの食リポ番組まで、あらゆるグルメ番組が乱立している。

そんな視聴者の想像の3万光年ほど先を行ったグルメ番組が、「ハイパーハードボイルド グルメリポート」だ。
番組の趣旨を簡単に説明すると、「世界のヤバイ人たちは何を食べているのだろう?」と、ディレクターがカメラ一つを持って直接その本人に会いに行くというもの。テーマは「食うこと、すなわち生きること」。食にはその人の性格や嗜好(しこう)、さらには人生や哲学が見えてくる。この番組に登場する人たちは、過酷な環境に置かれているがゆえに“生きるためには危険なことをするしかない”人々。“生きる”、つまり“食べる”ために。彼らが日々の食事へとたどり着くまでの過程を丹念に追っていくことで、その人の人生の過酷さ、あるいは意外な人生観が見えてくる、というのが本作の面白さ。

新番組の第1回はどんな番組でも力が入っているものだが、この番組はタイトルに恥じないハイパー全開のヤバイ人へ会いに行く。まず「リベリア共和国 元人食い少年兵の晩御飯」。クーデターや内戦、さらにはエボラ出血熱の発生で世界最貧国の一つと言われているアフリカのリベリア共和国。かつて少年兵として戦いながら、飢えて死んだ兵士を食べて生き延びた人たちがいる。そして大人になった彼らは、国営の墓地に勝手に住みついて生活している。そんな彼らは何を食べているのか…。

こんなトンデモない番組を作ってしまったのはテレビ東京。予算はないが、アイデアとバイタリティーで見せる番組を常に発信し続けてきた。終電に乗り遅れた人にタクシー代を出す代わりに家を見せてもらう「家、ついて行ってイイですか?」、飲めない中年男性がただ食べるだけのドラマ「孤独のグルメ」など、ほかの局なら企画が通らないような番組を高視聴率の人気番組にしてしまう不思議なパワーを持っている。

実はこのテレビ東京、昭和の「東京12チャンネル」(‘64~’81)時代から攻めていた。今では政治ジャーナリストとして知られる田原総一朗も、元は東京12チャンネルのドキュメンタリー番組ディレクターで、ニュージャージーのマフィアに突撃取材したり、フリーセックス集団の全裸結婚式に自らも全裸となって取材したりするなど過激で攻めた番組を作ってきた人物。そんなテレ東の“田原総一朗イズム”を継承しているのが、弱冠30歳(第1弾放送当時)のテレビ東京ディレクター/プロデューサーの上出遼平。ときとして“バカ”という言葉は、最上級の褒め言葉となるが、まさに上出Pはその“取材バカ”である。

第1回後半は「台湾 マフィアの贅沢中華」。ここでも上出Pの“取材バカ”魂がさく裂する。取材相手は彼のひと言で2万から3万の構成員が動くという台湾マフィアのボスなのだが、「食事以外のことは聞かない」という約束なのについ「人を殺したことがあるか?」と聞いてしまう。いつ撃たれても、刺されてもおかしくない状況で、上出Pは防弾チョッキを着ての、まさに命懸けの取材をしているという。

一方、番組の雰囲気は、「YouTuber」たちが発信する番組に近いものを感じる。コンプライアンスや自主規制で無難な番組しか作らなくなりつつあるTV局へ、「こんなバカバカしいこと誰もやらないだろ」「こんな過激なこと誰もできないだろ」と、世のYouTuberたちはTVでは放送しない作品を作り人気を得ているが、上出Pは通常のTVやドキュメンタリーではやらないことをやるために、海外取材で培った地元コネクションを生かしてヤバイ人たちに会いに行く。TVではやれなさそうなことを、TVの力で作っている希有なクリエーターなのだ。

なぜ、彼はこんな危険な取材をするのか?
いくつかのインタビューを読むと、恵まれた環境で育った自身のコンプレックスとともに、「ヤバイと言われている人たちは、本当にヤバイ人なのか?」という疑問があったという。本作に出てくるヤバイ人たちも組織や集団では確かにヤバイのだが、個人になるといい人だったり弱いところも見せたりする。はっきりと白黒つけられないアンビバレントな存在こそが人間だということを、まざまざと思い知らされるのだ。

TVで放送されているのが信じられないほど、見ている間中ずっと心がざわつく番組だが、クッションとなっているのが、スタジオでこの映像を見ながらコメントするお笑いタレントの小籔千豊の存在だ。本作にはナレーションがないのだが、視聴者と同じ目線で「何しとん!」とか「それ聞いちゃアカんて!」とツッコみ、視聴者の気持ちを代弁し、思いをぶつけてくれるのだ。この存在は大きい。

ここで冒頭の「ウミガメのスープ」の解答だが、実はこの男は船で遭難した過去があった。食べるものがなく次々と人が死んでいく中、仲間が作ってくれた「ウミガメのスープ」を食べて生き延びたのだ。そして月日が経ち、レストランでウミガメのスープを見つけた男は、懐かく思いスープを注文した。だがレストランで食べたスープの味は、かつて遭難中に食べたスープとはまるで違う。男は気付いた。あの時食べたのはウミガメではなく、死んだ仲間の死体だったと…! そんなことに気付かなかった自分の愚かさと自責の念から、男は自らの命を絶ったのだ…。最初のウミガメのスープは男を生かし、2度目のウミガメのスープは男を殺した。これは食事で人生が変わった男の話…。

生きるということは食べること。食べるということは他の命をいただくこと。番組を見た後は、食に対する概念が変わるはずだ。何も考えず毎日の食事ができる自分たちは、実は希有な存在なのだと知る。そして食事の前には「いただきます」と食事を作ってくれた人に感謝し、食べ終わった後には「ごちそうさまでした」と食物となってくれた命に感謝したくなる。生きることも、食べることも大変なことなのだ。本作は一見ぶっ飛んでいるように見えて、そんなことを考えさせてくれる良質の番組でもあり、その結果、優秀な番組に贈られる「ギャラクシー賞」の月間賞を受賞している。

上出Pは、番組制作にあたりYouTuber独特の編集テンポを意識しているという。一方でこの番組を作るまでには、TV制作で得た経験やつながりが生きているとも語っている(「ねとらぼ」インタビュー)。若い人はTVを見なくなったと言われて久しいが、「YouTube」世代の若いプロデューサーが若い人のために作った、TVでもここまでやれると証明した番組が「ハイパーハードボイルドグルメリポート」なのだ。もう一度、TVの力に期待したくなるヤバイ食リポ番組を、あなたもぜひその目で確かめてみてほしい。


竹之内円(ライター)

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2019.11.25

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第107弾!!
先輩世代に続くか。吉沢亮、山田裕貴共演の注目シリーズ

「仮面ライダー電王」の佐藤健、「侍戦隊シンケンジャー」の松坂桃李、「仮面ライダーW」の菅田将暉etc……。若手俳優の登竜門として「スーパー戦隊」をはじめとする特撮ヒーローモノは今や無視できない存在だ。10〜20代のまだ俳優という仕事への経験も認識も芽生えていない若者たちが、いきなり大人の世界に放り込まれて、理想の芝居に到達するまで千本ノックのように鍛えられるのだ。彼らは当時を振り返ってよく、大人たちが根気よく本気で自分と向き合ってくれたことへの感謝の言葉を口にするが、その経験は同時に、作品を背負って表舞台に出ていることの責任と覚悟をも植えつけてくれるのだろう。

そこからまた、令和時代のシンボル的存在になりそうな俳優が生まれた。「仮面ライダーフォーゼ」(’11)で2号ライダーの仮面ライダーメテオを演じてからわずか10年で、2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役へと駆け上がる吉沢亮だ。吉沢演じるのは明治時代の実業家であり、2024年をめどに発行される新一万円札の顔・渋沢栄一。27歳での大河主演は「平清盛」の松山ケンイチと並ぶ記録であり、28歳で「独眼竜政宗」に主演した“世界の渡辺謙”より早い。同局の期待のほどが分かる。

吉沢はその端正な顔立ちから、ついたあだ名が”国宝級イケメン”。確かに、記憶に新しいNHK連続テレビ小説「なつぞら」で演じた、はかない美しさを持つ孤高の画家・天陽役が憎たらしいほど似合っていた。その魅力に導かれるように吉沢の活動を追い続けると、良い意味で裏切られるに違いない。「斉木楠雄のΨ難」(’17)でコメディーの帝王・福田雄一ワールドに染まり、中二病を発病させているイタい男子・海藤瞬を演じれば、一転、行定勲監督「リバーズ・エッジ」(’18)ではイジメに遭っている闇を抱えた高校生・山田一郎役。そして「キングダム」(’19)では秦国の王・嬴政と元奴隷の漂の二役と、次から次へと新たな顔があらわになり、気付けば“吉沢沼”に落ちる人、続出。

多彩な顔の中でも、吉沢が放つクールビューティーな雰囲気がハマっているのが、12月に映画・チャンネルNECOでTVドラマ&劇場版2作が放送される「トモダチゲーム」シリーズだろう。同シリーズは、「別冊少年マガジン」で連載されている山口ミコト・原作&佐藤友生・作画の同名漫画が原作。仲の良い高校生グループが、高額借金返済ゲームに巻き込まれていくエンターテインメント・サスペンスだ。吉沢演じる友一は、一見友情に厚いが、実は勝つためには手段を選ばないという非情な切れ者。謎の案内人マナブくんの誘導で「陰口スゴロク」や「友情かくれんぼ」といった心理ゲームに挑むが、巧みなわながあちこちに散りばめられており、友一ですら心が揺らぎまくり。果たしてゲームを勝ち進めることができるのか。次第に策士ぶりが開花し、圧倒的なカリスマ性を放ちながらゲームの鍵を握っていく吉沢の姿は、映画「カイジ」シリーズの藤原竜也のごとし。例え現実ではあり得ないかもしれない設定でも、そこに説得力を持たせることができるのは、演技力のある俳優の成せる技だ。

友一の“友達”を演じるのは、「おっさんずラブ」シリーズの内田理央、「HiGH&LOW」シリーズの山田裕貴、「TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS」の大倉士門、アイドルグループ「でんぱ組.inc」「虹のコンキスタドール」の根本凪という、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの面々たち。今見ると、彼らが学生服を着ているだけでも新鮮だ。中でも学年トップの天才・美笠天智役に山田を推薦したのは、ほからなぬ吉沢だという。映画「トモダチゲーム 劇場版FINAL」の初日舞台挨拶の際、山田は次のように漏らした。「企画の段階のときに吉沢亮君から『美笠天智は山田裕貴君でお願いしたいんですけど』という話をいただいて、かなり燃え上がりました」。

2人の出会いは、デビュー当時までさかのぼる。山田は「海賊戦隊ゴーカイジャー」出身。吉沢とは撮影スタジオが同じだったこともあり、よく顔を合わせていたという。吉沢の第一印象は「なんてイケメンなんだ」(日本テレビ系「おしゃれイズム」より)。その後、クロスオーバー作品「仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦」(’12)で同じ作品に出演し、宿泊先のホテルで酒を飲み交わしては俳優論や将来の夢について語り合う仲になったという。以降、吉沢は、共演相手に山田の名前を度々出していたようで、それが「トモダチゲーム」シリーズで実現となった。

山田演じる美笠は実にオイシイ役どころだ。なにせ学年トップの秀才で、トモダチゲームの始めこそ皆のまとめ役だったはずなのに、出るわ、出るわ、嘘に秘密に裏切り行為まで。その人間くささ全開のキャラクターは、吉沢と再共演したNHK連続テレビ小説「なつぞら」の雪次郎役にそのまま受け継がれているかのよう。そして、友一とは意外な展開も!? そのシーンを見れば、吉沢が美笠役を山田に託した理由がよ〜く分かるだろう。山田も「お芝居を超えたところで友だちとして仲良くなれたし、亮を支えられてよかったなと思っています」(「トモダチゲーム 劇場版FINAL」の初日舞台挨拶より)と語っている。もはや吉沢は「心の友」だという。

同様に、出演者同士が固い絆で結ばれるに至ったシリーズといえば、よく知られるのが映画「クローズZERO」だ。小栗旬、山田孝之、綾野剛らがライバル心をたぎらせながら“競演”し、そのエネルギーが圧巻のバトルアクションを生み出し、青春映画の傑作を作ってしまった。以来、彼らは盟友として常日頃から意見を交わし、一役者を超えて日本のエンターテインメント業界をけん引する存在となった。

その後を継ぐのは間違いなく吉沢や山田たち。2人が固い絆を結んだ作品として「トモダチゲーム」シリーズがいずれ“お宝”と称されるようになるのは、必至だろう。


中山治美(ライター)

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2019.10.24

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第106弾!!
ヤクザ映画の老舗が放つ、“極道”改め“極上”のアイドル映画

近年の社会のトレンドの一つが、“コンプライアンス”である。このコンプライアンスのおかげで、昔はよかったが現在ではダメになったものも多い。映画などを見た若者がヤクザに憧れるような描き方は好ましくない…ということらしい。ならばヤクザを“カッコよく”ではなく“かわいく”描いてしまえばいいのでは…と思ったかどうかは分からないが、“かわいいヤクザ”の作品ができてしまった…。

「週刊ヤングマガジン」(講談社)に連載され、斜め上の展開の連続で人気となったジャスミン・ギュのコミックを「BACK STREET GIRLS -ゴクドルズ-」としてアニメ版&劇場版&TVドラマ版とメディアミックス展開。そんなゴクドルズが、映画・チャンネルNECOにやってくる!

アニメ版、劇場版、TVドラマ版共に基本ストーリーはこうだ。
筋を通し、義理人情に厚い男の中の男になりたい…そんな思いで犬金組に入った“頼れる兄貴”山本健太郎、“ダンディな武闘派”立花リョウ、“元気な鉄砲玉”杉原和彦だったが、勝手に敵対組織に殴り込みをかけ、犬金組長を激怒させてしまう(劇場版はここまでの6分30秒は正統派なヤクザ映画だが、ここからおかしくなる)。「何でもするので命だけは」と懇願する3人に組長は「足を切るか、内臓を出すか、アイドルになるかを選べ」とよく分からない選択を迫る。当然3人はアイドルを選ぶが、その結果、タイで性転換手術と整形手術を受けさせられ、美少女となって帰国。そんな3人を見た犬金組長改め作詞家兼プロデューサーの犬金先生は健太郎→“リーダー”のアイリ、リョウ→“クールビューティー”のマリ、和彦→“妹キャラ”のチカとキャラ設定。彼らのユニット名をゴクドルズと名付けるのであった…。

この「~ゴクドルズ」、特に劇場版は何がすごいかというと、製作が東映なのである。東映といえば「網走番外地」や「仁義なき戦い」といった任侠映画やヤクザ映画の名作を作ってきた老舗。その東映がパロディーにもほどがある「ゴクドルズ」を作ってしまったのだ。大丈夫か東映! しかしパロディーは本物が分かっていないと作れないし、真面目にきちんと作った方が面白くなることは、本作でも証明されている。

物語をけん引するのが、犬金組長…いや犬金先生のかなりゆがんだアイドル観。「アイドルは9時に寝ろ」「寝るまではぬいぐるみとお話しろ」「果物ジュース以外は飲むな」などと命じ、口答えしようものなら顔面にハイキックして「アイドルはお肌が命だ、早く寝ろ」と言い放つサイコパスだ。この犬金先生をいつもはダンディで渋い岩城滉一が楽しそうに演じているのも見ものだ。そんな犬金先生を遠い眼で見ている3人は、部屋で日本酒やウイスキーをラッパ飲みしながら花札をして憂さを晴らし、それをまた犬金先生に見つかりケツバットの制裁を食らう。「こんなアイドル、売れるはずがない」と心で叫ぶ3人だが…予想外に売れてしまったことで、さらなる波乱が巻き起こっていく。

ところで皆さんはゴクドルズの由来を“極道のアイドル”と思っているのではないだろうか? ところが犬金先生によると“極上のアイドル”なのだとか。これで分かるように犬金先生のセンスは並ではない。なにしろアイドルソングなのにタイトルが「愛のサカズキ」…。歌詞にきっちりヤクザの隠語を忍ばせてくるあたり、相当な力量を感じさせる。約束を意味する「ゆびきり」はその筋の人が聞けば「おとしまえ」だし、island=「シマ」は「縄張り」に変換される。さすがである。だが金も時間も手間もかかる犬金先生のアイドル育成法を見て、多くの方はきっとこう思うだろう。

「本物の女の子でやったほうが早くね?」

そこ、気付いちゃいけないとこ。実際のところはヘタこいた3人へのおとしまえでもあり、サイコパスな犬金先生のおもちゃでもあるので、これでいいのだ、たぶん。そして意外にも犬金先生は女性には優しく、手を上げたことは一度もないので、本物の女性アイドルだとゴクドルズのような仕打ちはできないのだ。つまり、いたぶれない。だが実はアニメ版でその事実に気づく人物が出てくるのだが…。

服装によって人の意識も変わるというが、服装どころか体そのものが変わってしまった3人は、やがて心境も変わっていく。慣れないハイヒールで転んでしまったチカは思わず「きゃっ」と叫んでかわいく座り込んでしまう。実はチカ(和彦)はアイドルになったことがまんざらでもなく、トイレの鏡を見ながらかわいい仕草を研究していたりする。それを見た硬派のマリ(リョウ)は「それでも男か!」と責めるが、マリも寝言で「かわいくなりたい!」と叫んでしまう。それを寝たふりをして聞かなかったことにする仲間思いのアイリとチカであった。そして劇場版ではアイドルの祭典である「アイドル・サミット」を主宰する悪徳青年実業家とのバトルを迎えることとなる…。

同キャストによる全6話のTVドラマ版ではアイリ、マリ、チカの過去や家族の話、犬金先生の思いつきでメンバー卒業によるメンバーチェンジなど、涙なしには見られない(ウソ)試練が次々と襲い掛かってくる。悲劇も3度続けば喜劇、喜劇も3度続けば悲劇となるのであった。

本作はヤクザ映画ファンやアイドルファンのほか、特撮ファンも必見だったりする。まずゴクドルズの3人だが「仮面ライダー1号」の岡本夏美、「仮面ライダーエグゼイド」の松田るか、「ウルトラマンⅩ」の坂ノ上茜で、マリが惚れる女医が「仮面ライダーアギト」や「仮面ライダー電王」の秋山莉奈、劇場版の敵となるのが「劇場版 超・仮面ライダー電王&ディケイドNEOジェネレーションズ 鬼ヶ島の戦艦」の桜田通、そしてアイリ(健太郎)が慕う飲み屋のオヤジを「劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー」で地獄大使を演じた故・大杉漣(!)と、特撮ヒロインやヒーローが大挙出演しているのだ。

原作に最も近いのが「ひぐらしのなく頃に」や「のだめカンタービレ」などの作品で知られる今千秋監督がノリノリで作ったアニメ版(というのもタイトルバックの踊るゴクドルズのシルエットは3人とも今千秋監督なのだ!!)。劇場版&TVドラマ版には出てこないアイドル育成のプロであるマンダリン木下、ジョージからリナにされてしまう悲劇のイタリアン・マフィア、そしてまさかの犬金の妻(最強キャラ)など個性的過ぎるキャラクターが続々と登場する。このアニメ、絵がほとんど動かない作りではあるにも関わらず、かなり面白い。

「BACK STREET GIRLS -ゴクドルズ-」はブラック・コメディーでありながら、日本ならではの文化であるヤクザとアイドルに対する痛烈なアンチテーゼでもある(ホント?)。アニメ版、劇場版、TVドラマ版と併せて見ることで、その面白さが2倍にも3倍にもなる。そして見終わった時、あなたはきっとこう思うだろう。「何でもやります」なんて絶対に言わない…と。


竹之内円(ライター)

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2019.9.24

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第105弾!!
料理ドラマとしても秀逸! 中年ゲイカップルの人生と食を描く大人のドラマ

家賃10万円の2LDKでつましく暮らすオジサンカップルの日常を描く、よしながふみの人気コミック「きのう何食べた?」。ドラマ版は料理上手の弁護士・シロさんを西島秀俊、乙女チックな美容師・ケンジを内野聖陽という神キャスティングが大いに話題となった。

全12話を通して特に大きな事件が起こることはない。倹約家のシロさんによって月2万5000円の予算でやりくりされる日々の食卓をメインに、「大好きな人と一緒に食べるごはんっておいしいね!」という普遍的なテーマがドンと据えられているだけだ。…にも関わらず、毎エピソード見終わるたびに得られる、この満足度の高さはなんなのか? それはやはり、上質な会話劇が展開されているからであろう。白髪もシワも増え、シロさんの母親(着物をキリリと着こなす梶芽衣子が好演!)の言うところの“老い支度”を始めてもおかしくない年齢となった2人が、仲良く、けんかしつつもお互いのことを一番に考え、何気ない瞬間に幸せを見いだしていく。その時々に交わされる、ほどよく枯れた心地よい会話のキャッチボールが素晴らしい。特にケンジがシロさんへの思いを激しくぶつける終盤のエピソードは落涙必至だ。

さて、神キャスティングは主人公の2人だけではない。シロさんが行きつけの激安スーパーで運命的に出会う主婦・富永佳代子に扮(ふん)するのは田中美佐子。シロさんに対する妄想を爆発させる一人芝居では、コメディエンヌとしての才能を発揮してくれる。またミステリアスなゲイの友人・小日向大策を山本耕史が、後に小日向の恋人として紹介される井上“ジルベール”航を磯村勇斗が演じるのだが、この(バ)カップルが強烈なスパイスとなって物語を盛り上げてくれる。

一方、本作はタイトル通り料理ドラマとしても秀逸。鮭と舞茸炊き込みご飯、具だくさんナポリタン、ツナマヨおかずクレープなどなど、シロさんの庶民的だけどひと手間かけたメニューの数々は、普段あまり料理をしない人でも作ってみたくなること請け合い(レシピも丁寧に解説されています)。シロさん不在をいいことに、ケンジが大みそかの夜に一人きりで作ったサッポロ一番みそラーメンも、本当にたまらなかった。あぁ、思い出すだけでヨダレが……。

前述したように、物語の背骨となる大きなタテ軸があるわけではない。職場でのささいな出来事、友人たちとの会食、両親との関係…。こうした人と人とが心を通わせる場面・場面が淡々とつづられていく。もちろん、子どもを望めない将来のことを含め、同性愛者だということで、時には立ち止まらなくてはならないこともある。――あるのだけれど、2人は問題に対峙(たいじ)し、あるいは受け入れ、愛し、楽しんでいる。そんな2人を通して伝わってくるのは、極上の人間賛歌。これぞ大人のドラマだと脱帽しました!


奈良崎コロスケ(ライター)

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2019.8.26

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第104弾!!
2時間ドラマきっての人気サスペンスシリーズを、1作目からたどり直す

女優・片平なぎさを語る時に欠かせないものがある。“2時間ドラマの女王”という称号だ。そのイメージを確立させた「赤い霊柩車」シリーズが、映画・チャンネルNECOで順次放送される。9月から12月にかけて、’92年にフジテレビ系列で放送された1作目「赤い霊柩車 京都豪邸密室殺人の謎」から第20作「赤い霊柩車 血の鎮魂歌」までをまとめて見ることができる。

原作は、一世を風靡(ふうび)した人気推理作家・山村美紗の「葬儀屋探偵・明子」シリーズ(徳間書店刊)。刑事や探偵以外の人物を主人公にした「アマチュア探偵」ものだ。京都にある葬儀社の女社長・石原明子(片平)が、納棺する遺体の不審な点に気付き、実はその遺体は殺されていたと見抜く。そして遠距離恋愛中の東京の医師・黒沢春彦や京都府警の狩矢警部とともに、持ち前の観察力と推理力で犯人のアリバイを崩していく――。葬儀屋という職業と殺人事件とが意外なようで密接に関わる設定の絶妙さに、片平なぎさの明るさがまさに陰陽のように噛(か)み合い、放送されるたびに高視聴率をマークして長期シリーズ化。’18年放送の最新作「赤い霊柩車 猫を抱いた死体」まで、計37作が制作された。

片平は他にも「小京都ミステリー」(’89~’01)、「カードGメン・小早川茜」(’00~’05)などいくつもの2時間ドラマの主演シリーズを持ってきたが、放送期間も本数も「赤い霊柩車」が図抜けている。まさに“2時間ドラマの女王”の代表作。おなじみのドラマになり過ぎて気付かれにくいものの、実は堂々と、TV史上に残るシリーズだと言い切ってよいほどの作品なのだ。なぜそこまでのシリーズになったのかを吟味していくと、いくつもの要因が重なって必然となっていったことが見えてくる。

そもそも2時間ドラマの枠は、「赤い霊柩車」のようにサスペンスと明るさを兼ね備えた作品が似合う性格を持っている。お手本がズバリ、推理ドラマの古典中の古典「刑事コロンボ」だからだ。「刑事コロンボ」の吹替版が日本で初放送されたのは’72年。しょぼくれたコート姿のコロンボ警部が「うちのカミさんがね」と毎度ボヤきながら、知能犯が仕組んだ難攻不落の完全犯罪の破れ目を突いていく。その落差の妙がウケて、70年代半ばには新作の放送と旧作の再放送が繰り返される特大のヒット作となった。

また「刑事コロンボ」は、TV放送を前提に制作された単発の映画、「TVムーヴィー」の先駆作でもあった。映画放送枠は当時のTVの花形だったが、放送権を1本ずつ映画会社から購入して放送するため、常にラインアップを埋めるのは大変になる。ならば自前で同じ放送時間の作品を作ればいい、という発想が「TVムーヴィー」の原点となった。

この試みを日本のTV局が参考にして、’77年のテレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」スタートを皮切りに2時間ドラマの枠が続々と生まれ、やがて「家政婦は見た!」「赤かぶ検事奮戦記」「法医学教室の事件ファイル」「タクシードライバーの推理日誌」、そして「赤い霊柩車」などの長寿人気を誇るシリーズが育っていったのだ。

この“コロンボ・インパクト”でよみがえったのが片平なぎさだ。’74年にホリプロと契約し、山口百恵に次ぐ逸材と期待されてデビューしたものの、「歌は苦手」でアイドル歌手としては大成できず。演技に打ち込みたいと望むが、日本映画の斜陽とホームドラマの隆盛で、大柄の華やかさを生かせる場所がなかなか見つからず。80年代までは、ドラマ「スチュワーデス物語」のエキセントリックな憎まれ役が一番の代表作という状態だった。

その境遇が、2時間ドラマと出会うことによって一転したのだ。葬儀屋の娘が殺人事件を明るく解決、というケレン味の大きな、日常から半歩浮いた役柄が誰よりも似合う女優が、片平なぎさだった。「赤い霊柩車」シリーズの初期作を見ると、彼女が水を得た魚のように、伸び伸びと魅力を発揮し始めていることが感じられてジーンとくるものがある。2作目「赤い霊柩車 黒衣の結婚式」には、封印していたはずの歌声をカラオケで披露する、セルフ・パロディーのような場面まであったりするのだ。

本シリーズ初期の見どころは、片平なぎさの覚醒だけではない。2時間ドラマの人気シリーズは連続ドラマと違い、数カ月から1年の間を空けて新作が放送されるが、多くは主人公をはじめとした主要キャラクターのキャストがレギュラー化されている。おなじみのメンバーによるおなじみのやりとりを定期的に楽しむ、視聴者にとっての安定感、肩の凝らなさがますます魅力になっていく仕組みだ。 「赤い霊柩車」はまさにその典型なのだが、初期作を見ると、それでも少なからずの近作との違いがある。たとえば、明子の恋人・春彦役といえば、神田正輝が演じるものと決まっている。しかし、神田の登場は実は3作目から。1作目は美木良介が、2作目は国広富之が春彦を演じている。神田は三代目・春彦なのだ。美木の男っぽさ、国広の二枚目半な優しさをそれぞれ引き継ぐうち、知的で温和だが骨っぽい、神田ならではの春彦が完成していったわけで、そのプロセスを想像しながら見ていくときっと興味深いはず。

それに、初期作ではまだまだパターンが完成していないところがいくつもある。明子は葬儀社を継いだばかりでまだ仕事に慣れず戸惑ってばかりいるし、遠距離恋愛で春彦との愛が冷めないか不安を抱えている。近作ではすっかり恒例になっている、石原葬儀社の心配性で口やかましい専務の秋山(大村崑)と、マイペースの事務員・良恵(山村紅葉)とのコミカルな口げんかも当初は控えめ。逆に、そこに当時の職場ドラマらしいリアリティーが感じられたりする(ただし、初期作で登場する山村紅葉サンはすごくスマート。見る人によっては、近作とは一番変わっているところ! となるかも)。

つまり「赤い霊柩車」は、登場人物が時代を経ても成長しないアニメーションのようにレギュラーメンバーの関係が常に不変なようで、少しずつだがちゃんと時とともに変化している。最大の変化は――ここからは私見になるが――、明子と春彦の、いつまでも結婚せず遠距離恋愛を続けている関係の意味合いが、シリーズを経て別物になっていることだ。初期作では山村美紗の原作に倣い、2人の遠距離恋愛は、結婚を阻む障害として設定されている。医師と葬儀屋の娘(後に社長)では釣り合わない、いずれどちらかが自分の生き方を捨てなければ結ばれない……そんな緊張感をはらんだ関係として描かれている。同時にそんな微妙な距離を持つ明子と春彦は、推理においては対等な関係。“おしどり探偵”になってディスカッションし、因習の強い古都・京都での家柄や跡継ぎ問題を巡る殺人事件を暴いていくさまが鮮やかなコントラストとなり、シリーズの品位を決める重要なエッセンスとなってきた。

しかし遠距離恋愛を続けているうちに時代は変わり、2人の結婚できない関係は決して不幸なものとしては映らなくなった。近作の明子と春彦を見ていると、お互い婚姻に縛られず、限られた会える時間を大切にし合うようすが大人のカップルとしては理想的に見える。「結婚できない関係」から「結婚しなくてもいい関係」に、少しずつ、だが確実に変わっているのだ。シリーズを初期作から見直す楽しみには、長い恋愛を続ける男女がベストの形を見つけていくのを見届ける興味と、感慨も含まれている。


若木康輔(ライター)

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2019.7.24

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第103弾!!
大人気コンビの原点にしてブレイクポイント

映画・チャンネルNECOで8月に放送が始まる、テレビ埼玉で大人気放送中のバラエティー番組「いろはに千鳥」のシーズン2。

この番組は、お笑いコンビ・千鳥が埼玉を中心とした各地をぶらぶらしながらおいしいものを食べたり、街の人たちと触れ合ったりするトークバラエティー。関東初の冠番組は’14年のスタート当初、1クールの予定だったが、視聴者から熱烈な支持を受けてシーズン2の放送が決定。現在はシーズン9が放送されており、番組としては6年目に突入と変わらず人気を博している。

今や飛ぶ鳥を落とす勢いの千鳥は、高校の同級生だったツッコミ・ノブとボケ・大悟が’00年に結成。岡山弁と関西弁を織り交ぜたオリジナリティー溢れるしゃべくり漫才で早くから頭角を現し、漫才頂上決戦「M-1グランプリ2003」では初めてファイナリストに。その後、関西で最強ロケ芸人として大活躍し、’12年に本格的な東京進出を果たした。

しかし、コンビではなく、どちらか片方のみで出演する“ピン売り”が主体となる全国区のバラエティー番組には、これまで2人が培ってきたコンビ芸を生かせる場がなかった。お笑いフリークには知られた存在ではあったが、当時はコンビ名すらなかなか浸透せず、’13年には「ロンドンハーツ」(テレビ朝日系)のある企画からノブは“ノブ小池”へ改名することになってしまうほどだったのだ。

そんな中、得意なロケに立ち返ったのが、この「いろはに千鳥」。全国区のバラエティー番組は有益な情報と注目ポイントを押さえた構成となっているが、この番組は基本、カメラは回しっぱなし。朝5時の集合に遅刻したり、夜遅くまで行われる8本撮りの過酷なロケに文句を言ったり、出会った人に気を遣わないむちゃくちゃな言葉を投げかけたりと、関西でのロケさながらの自由奔放な2人の姿が面白いと評判を呼び、全国区のバラエティー番組でも同様のやりとりが徐々に浸透していった。ノブはのちの取材で「東京で僕ららしくやれるようになったのは、『いろはに千鳥』のおかげかもしれない」と述懐している。

今回放送されるシーズン2では、一発目となる#11から大悟が遅刻。シーズン1でも触れ合ったダチョウと絡み、漫才に出てくるブルーベリー畑でロケを敢行する♯13、今もノブが首からぶら下げている深谷市のマスコットキャラクター・ふっかちゃんの財布をゲットする♯14、低予算のため節約していたにも関わらず、行田市のオートレストランで財布の紐がガバガバに緩んでしまう♯17、子ども向けのアトラクションで真剣勝負を繰り広げる#20など注目回がめじろ押しだ。 どんな状況でも鋭い嗅覚と絶妙なコンビネーションで次々と笑いを生み出していくさまは圧巻! 今や確固たるポジションを築き上げた現在の彼らの原点とも言うべき番組を、このチャンスにぜひともご覧いただきたい。


高本亜紀(ライター)

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2019.6.24

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第102弾!!
中国ドラマ新時代! 米国ドラマ並のクオリティー+アジアならではの人間ドラマ

映画・チャンネルNECOで中国ドラマ「ダイイング・アンサー~法医秦明~」を日本TV初放送! 本作はアメリカの大手映画・ドラマのデータベースIMDbのユーザーレビューで8.4(’19年5月現在)の高評価を誇る、中国版「BONES」と評される本格クライムサスペンス。中国ドラマといえば「三国志」や武俠モノばかりだった時代はもう昔。勢いづく中国ドラマを代表する話題作の日本上陸だ。

急速に経済発展を遂げた中国では今、ドラマ界が活況を呈している。’18年の1年間だけでも約400本ものドラマが制作され、そのジャンルは多岐にわたる。14億に迫る人口を抱えるだけにそのマーケットは大きく投資額も膨大で、製作費が約100億円という超大作ドラマまで出現している。また、視聴者は若い世代ならスマホやパソコンを使い、動画配信サービスでドラマを見るのが当たり前という環境。そのため、ドラマの主戦場はTVからインターネットへと移行しつつあり、何十億もの製作費をかけた大作がどんどんWebドラマとして配信されている。さらに、全ての作品が事前に内容を検閲される中国のお国事情もあり、TV放送に比べれば規制がゆるいといえるWebドラマには、より自由な表現を求めて各界の才能が集まってくる。結果、近年では映画界のビッグネームもこぞって参入しはじめ、Webドラマからクオリティーの高い新しい作品が生まれるようになった。その好例といえるのが、今回放送となる「ダイイング・アンサー~法医秦明~」だ。

本作は中国でサスペンスドラマの新境地を切り拓いて大ヒットし、若者に支持されるサスペンスドラマのブームを起こすきっかけとなった作品。メガホンをとったのは三谷幸喜作「笑の大学」の中国版舞台や、ローマ国際映画祭で受賞した映画「十二公民(原題)」で知られるシュー・アン監督だ。彼はオープニングからアメリカのクライムドラマを思わせるテンポのよいしゃれた演出で見る者の心をつかみ、一見奇妙に見える殺人事件の謎を解いていく監察医・秦明の活躍を描いていく。この秦明という主人公は、犯罪の真相は「死体が語りだす」というのをモットーにしている法医学のプロ。「Dr.HOUSE」のハウスのように同僚にも愛想のない偏屈な性格だが、「BONES」のブレナンのように科学的思考に長けた天才だ。また、扱う事件は「デクスター」のようにリアルなグロテスクさがありながら、彼を取り巻く人間ドラマは「ホワイトカラー」のようにウィットに富んだ軽さがあり、彼が鋭い観察眼と大胆な行動力で鮮やかに事件の真相に迫っていく展開には、胸のすく痛快さがある。

一方で、秦明の助手となる新人監察医の李大宝が華奢なかわいらしい女性で、アニメに出てくるようなボーイッシュな元気キャラというのは、アメリカのドラマにはないセンスだろう。しかし、これがまた新鮮な味を出していて、初めは女性だからと軽んじられていた李大宝が次第に秦明に一目置かれるようになり、まるで噛み合っていないかのように見えた2人が、それぞれ自分を主張しながらも絶妙なコンビネーションで事件を解決に導いていく姿にワクワクさせられる。また、それぞれの事件には環境破壊や格差社会などの問題を抱える中国の現代社会が色濃く反映されているのも興味深いところ。それに加えて、事件の犯人が判明した後に毎回、その背景に隠された泣ける人間ドラマが明かされるくだりは日本のドラマにも通じる部分で、アメリカのドラマに比べてより情緒的に視聴者の心に訴えてくる演出は、日本の視聴者も共感できる見どころだろう。

なお、秦明を演じるのは16歳で俳優デビューして以来、同世代の中でも飛び抜けて演技派と評価され主演ドラマが多数あるチャン・ルオユン。彼と李大宝役のジャオ・ジュンイェン、刑事・林涛役のリー・シェンはいずれも名門の北京電影学院の卒業生で、専門学校で演技を学ぶ俳優が多勢を占める中国では、若手俳優でもその演技力はお墨付きだ。そんな中国ドラマの底力をぜひ本作で体感してほしい。


小酒真由子(ライター)

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ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第101弾!!
探偵ミステリーの名探偵コンビ、“女性×女性”で現代日本に登場!

映画・チャンネルNECOがHuluオリジナル連続ドラマ「ミス・シャーロック」をTV初全話オンエア! 本作はHuluがHBO(「セックス・アンド・ザ・シティ」「ゲーム・オブ・スローンズ」など)のアジア部門と初タッグを組み、ROBOT(「MOZU」など)が制作を手掛け、グローバル化が進む世界のドラマ市場を意識してシャーロック・ホームズの物語をローカライズした話題作。東京ドラマアウォード2018「衛星・配信ドラマ部門」にて優秀賞受賞、Asian Academy Creative Awards 2018で最優秀作品賞を受賞し、海外ドラマファン、ミステリーファンにも注目されているこの作品の魅力をひも解いてみよう。

文豪アーサー・コナン・ドイルが生んだ名探偵ホームズは、100年以上にわたって読み継がれている推理小説の主人公。これまでジェレミー・ブレット主演の英国版ドラマや、ロバート・ダウニー・Jr.主演のハリウッド映画版など幾度となく映像化され、2012年には「テレビと映画で最も多く主人公となった人物」のギネス記録に認定された。そんな中、近年ではパイプに鹿撃ち帽がトレードマークの古風なイメージにとどまらない、現代化されたホームズを描く作品も次々と登場。その筆頭が2010年から放送されている英BBCドラマ「SHERLOCK/シャーロック」で、舞台を現代のロンドンに置き換え、ベネディクト・カンバーバッチがエキセントリックかつスマートなホームズに扮(ふん)した同作は世界的なブームに。続いて、2012年には現代のニューヨークを舞台に相棒のワトソンを女性キャラクターにした米国版ドラマ「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」もスタートした。

そんな世界のトレンドに乗って現代の日本を舞台にした「ミス・シャーロック」は、ホームズもワトソンも女性が演じる画期的な作品である。竹内結子が演じるシャーロックは、天才的頭脳の持ち主でハイファッションの服とハイヒールが似合うクールな女性。だが、変わり者で人付き合いに難ありという名探偵ホームズのイメージそのままの捜査コンサルタントだ。また、薬物中毒でバイオリンが趣味のホームズになぞらえ、チョコレート中毒で甘いものに目がなく、自宅ではチェロを弾く設定というのが面白い。一方、貫地谷しほりが演じるのが、ホームズの相棒ワトソンに当たる元外科医、橘和都。彼女はナイーブで正義感が強く、恋愛に関してもウブなのがかわいらしいところ。ワトソンが元軍医だったことを踏まえ、内戦の続くシリアで医療ボランティアをしていた過去を持つ女性として出てくる。そして、原作同様、この2人が同居生活をしながら数々の不可思議な事件のミステリーを解いていくことになるのだ。

なお、2人が住んでいる下宿はハドソン夫人ならぬ波多野君枝(伊藤蘭)が家主で、扉にはホームズの住所とされる221Bの表記が。さらに、レストレード警部を思わせる礼紋元太郎(滝藤賢一)、ホームズの兄マイクロフトに当たる双葉健人(小澤征悦)も登場するなど、随所に思わずニヤリとさせられる原作を意識した仕掛けがちりばめられている。一方で、礼紋が足を使う捜査や面倒な書類仕事を当然のように部下である柴田(中村倫也)に回す上下関係をユーモラスに描き、容疑者確保のシーンではもちろん銃撃戦とはならずに、腕章をつけた刑事たちがぞろぞろ現れるといった日本版ならではの演出も。そんなふうにホームズの世界観の中に、日本の刑事モノのエッセンスも含ませているのが心憎い。

各話のストーリーについていえば、比較的有名ではない原作エピソードをあえて選んでいる感があるが、ホームズの宿敵モリアーティに当たる犯人が誰で、“最後の事件”でシャーロックがどのように行動するのか、ホームズ作品になじみのある視聴者なら予想がついてしまうだろう。だが、それでも興ざめとはならない魅力が本作にはある。それは、日本人キャラクター、しかも女性バディーとなった名探偵コンビが、これまでのホームズ作品にはなかった女性同士の感情のケミストリーを生み出し、新鮮な感動をもたらしてくれるからだ。


小酒真由子(ライター)

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2019.4.24

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第100弾!!
昭和の時代の空気感を今に伝える実録人間ドラマ

新しい元号も決まり、なんだかんだと2020年の東京五輪に向けて歩みはじめ、街も社会も奇麗に塗り替えられていく昨今。猥(わい)雑だが、人々が欲望むき出しでエネルギッシュに生きていた昭和が無性に懐かしく感じる時がある。

そう感じていた時に、ドンピシャな番組が今によみがえる。’81年にテレビ朝日系で放送された実録再現ドラマ「ドラマ・人間」シリーズを、映画・チャンネルNECOで5月から5カ月にわたって全10回を放送。同シリーズが一挙放送されるのは、初回の’81年以来、実に38年ぶり。パッケージ化もされていないというから、まさに幻の番組だったというワケだ。

各回のタイトルを聞いただけで、グッとひきつけられるものがある。犯人が黒澤明監督の名作「天国と地獄」(’63)を参考に身代金請求したという、’80年に起こった「名古屋・女子大生誘拐殺人事件」を皮切りに、借金の穴埋めをするために父子がふらちな行動に走った’73年の「大阪ニセ夜間金庫殺人事件」、さらに、被害者にご丁寧に防犯予防の説教までして金を奪った妻木松吉事件がもととなった「’81年型説教強盗」などなど。現場で何が起こっていたのか? 想像をかき立てられる事件・エピソードがズラリと並んでいる。

思えば当時、映画もドラマも実録モノが多かった。火付け役は、ナレーター小早川正昭の「新聞によりますと…」の事件解説で知られる日本テレビ系「テレビ三面記事 ウィークエンダー」の再現ドラマだ。タイトル通り、B級ニュースを面白おかしく伝えるニュースバラエティーでエロ・グロ有り。家族そろったお茶の間で、男女の痴情のもつれを赤裸々に見せ、当時の子どもたちは親の顔色をうかがいつつ視聴した。はっきり言って内容より、ドキドキしていた当時の自分の感情の方をより鮮明に覚えているくらい。“コンプライアンス”なんて言葉がなかった時代の、TVの良き思い出だ。

だが当事者たちにとって再現ドラマは生々し過ぎたようで、批判も多かったようだ。そこで真摯(しんし)に事件を検証し、より人間にフォーカスした番組をと、誕生したのが「ドラマ・人間」シリーズだ。制作はテレビ朝日、国際放映とともに東映が携わり、「~【名古屋・女子大生誘拐殺人事件】」にはドラマ「特捜最前線」の佐藤肇、「~【息子よ!母の乳房を撮りなさい】」には石原裕次郎&吉永小百合共演映画「若い人」(’62)の西河克己ら気鋭監督が演出を担当。脚本は、「~【名古屋・女子大生誘拐殺人事件】」を「トラック野郎」シリーズの 掛札昌裕、「~【大阪ニセ夜間金庫殺人事件】」は映画「女囚さそり」シリーズの監督である伊藤俊也が手掛けているというぜいたくさ。さらに新興宗教「~【イエスの方舟事件】」では、主宰者の千石剛賢を昭和の二枚目スター・岡田英次が演じている意外さ。同事件を扱ったドラマといえば、ビートたけし主演の池端俊策版が知られるが、ぜひ比較して視聴したいところだ。

異色なのは社会的事件だけでなく、話題の人物と生きざまの両方に着目している点だ。その一つが、体育教師が指導中の落下事故により首から下が完全まひする重度の身体障害者となった「~【愛・深き淵より】 」。モデルとなったのは現在も詩人・画家として活躍中の星野富弘さん。星野さんは海外でも個展を開催し、今や故郷の群馬県みどり市に富弘美術館を開館するまでに至った。そこにはどんな苦悩があったのか。本作を見れば、彼の作品をより深く理解することができるだろう。

そのドラマ版で星野さんを演じるのは、ウルトラマンタロウこと篠田三郎。そして主治医役がフランキー堺、母親役が 初井言榮で、2人ともすでに鬼籍(きせき)に入った。昭和への郷愁とともに、今は亡き名優たちの演技がまた、目頭を熱くさせるのであった。


中山治美(ライター)

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